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2016年参議院選挙 共同研究

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CSI

初めて「18歳選挙権」が導入された2016年7月の参議院選挙。電通パブリックリレーションズでは、東京大学橋元研究室、関西大学小笠原研究室と共同調査を実施した。テーマは有権者のメディア接触と投票行動。2013年7月の前回参院選で実施した「ネット選挙」の共同調査に続く第2弾である。18・19歳の有権者は、どのようなメディアを見て選挙に臨んだのか。東京大学大学院情報学環の橋元良明教授に解説をいただく。



2016年参議院選挙における10代の情報行動

東京大学大学院情報学環 橋元良明

2016年7月の参議院選挙では、初めて18・19歳の10代に選挙権が与えられた。我々はその前後に、彼らの選挙時の情報行動・投票行動に関するパネル調査1を実施したが、その結果、彼らは他の年齢層よりもネット経由で頻繁に選挙情報を入手していたが、必ずしもその情報をそのまま信じるわけではなく、批判的に受容していたことが明らかとなった。このレポートは、その調査から得られた結果の概要報告である。

1 調査は東京大学情報学環橋元研究室と関西大学社会学部小笠原研究室、株式会社電通パブリックリレーションズの共同研究の一環として実施した。共同研究のメンバーは筆者の他、小笠原盛浩(関西大学)、河井大介(東京大学情報学環)、長濱憲(電通パブリックリレーションズ)、吉田航(東京大学学際情報学府修士課程)の計5人である。また、本調査は電気通信普及財団平成27年度助成(テーマ「国政選挙におけるネット選挙運動の効果の比較研究」、代表:小笠原盛浩)および電通パブリックリレーションズからの研究助成を得て実施された。

 

1.調査の概要

調査は全国18歳から69歳までの男女1791人2を対象としたネット調査である。事前調査は公示前の2016年6月20日から21日、事後調査は投票直後の2016年7月10日(20時~)から12日にかけて、パネル調査として実施した。

2サンプルの当初の割り当ては、10代(18・19歳)、20代~60代各300の計1800であり、そのうち、事前調査・事後調査の両方に回答した有効回収票は1791。このままのサンプル分布では、10代の比重が他の年齢層の5倍になってしまうため、全体集計の比率分布を計算する際、10代の度数分布を他年齢層との比較で5分の1になるよう調整した (「頻度によるウェイティング調整」)。その場合でも、全体の合計の値が最終的に1791になるよう重み付け計算をしている。

 

2.18・19歳の投票率

【図1】18・19歳の投票率png

図1 18・19歳の投票率(図中、高校生、大学生は18・19歳の内数)

我々の調査では18・19歳(N=289)の投票率は66.2%であり、全年齢層平均の投票率73.6%には及ばなかった。ちなみに18歳は63.1%、19歳は68.2%で、我々の調査では18歳より19歳の投票率が高かった。

なお、総務省が発表した投票率(図中では「実態」と表記)は、18・19歳の投票率は45.5%で、やはり全体の投票率の54.7%を下回っている。

実態に比べ、今回の調査結果の投票率が高いのは、標本母集団がネット調査モニターであり、国民平均に比べ、全般的に高学歴であり、政治的関心が高いことによるものと思われる。

国政選挙の投票率は年齢と比例し、年齢が低くなるにつれ下がる傾向にある。今回、我々の調査では、18・19歳の投票率66.2%は、20代の投票率(61.7%)より高くなっており、メディアが「初めての10代の選挙」であることを喧伝したことや、一部の高校や大学で投票促進活動が展開されたことの影響があったと考えられる。ただ、「初回効果」ということも考えられ、今後も10代の投票率が20代を上回るかどうかは不明である。

投票しなかった人にその理由をたずねた結果、全年齢層平均では「関心がなかったから(27.1%)」が最も多く、次いで「時間がなかったから(20.9%)」であったが、18・19歳では最も多かったのが「時間がなかったから(33.7%)」、次いで「関心がなかったから(21.4%)」であった。

 

 

3.選挙情報に接した情報源 

ネット関連は年齢層別で10代が最高

【図2】選挙期間中、選挙関連情報を得た情報源図2 選挙期間中、選挙関連情報を得た情報源(単位:%)

 

図2は、選挙期間中、さまざまな情報源について、選挙関連情報に接した人の割合を全年齢層平均(青帯)と18・19歳(赤帯)に分けて示したものである。参考までに2013年の参議院選挙時に我々が実施したネット調査の結果(黄帯)も付記した。

主要メディアでは「テレビ」は、18・19歳も全年齢層平均とほぼ変わらない接触率であったが、新聞は年齢層別に見た場合、10代が最低であった。若年層において、新聞は購読率も閲読時間もともに低く、それに伴って選挙情報に接する割合も低いのであろう。

一方、「ネット全般(図のaからhのいずれか一つでも接触)」は、全年齢層平均が37.3%に対し、10代は約半数の50.9%であり、これは年齢層別に見た場合、最高の数値であった。

「家族や友人との会話」は意外にも全年齢層平均を上回り、年齢層別では60代についで高かった。家族との同居率が高く、友人との交友時間も長いことが一因と考えられる。

図2の下段群は、「ネット」について詳細に接触状況を見たものである。10代はいずれの項目も全年齢層平均を上回り、またいずれの項目も年齢層別に見て最高の数値であった。

 

4.役に立った情報源

10代のネットの有益性評価は高くない

【図3】選挙期間中、選挙関連情報で役に立った情報源png 図3 選挙期間中、選挙関連情報で役に立った情報源(母数は各情報源から選挙情報に接触した人、単位:%)

 

図3は、さまざまな情報源から得た選挙関連情報について情報源ごとに「役に立った(「役に立った」と「やや役に立った」の比率の合計)」と答えた人の比率を示したものである。その際、図2で各情報源に接触したと答えた人を分析母数としている。

10代(赤帯)は、テレビに対し、全年齢層平均以上の高い有益性評価を下している。ちなみに69.2%は年齢層別に見て最も高い数値である。10代の新聞評価については、そもそもこのメディアで選挙情報に接触した人は少ないが、接触した人においては、全年齢層平均とほぼ同様の高い評価を下している。また、10代は、「家族や友人との会話」に対し70.4%が役に立ったと答えているが、この数値は年齢層別に見て最も高い。

図の下段群はネットの詳細項目別に有益性評価を見たものである(「役に立った」および次節の「信頼できた」に関しては、「いずれか一つでも」というくくりが意味を持たないため、個別の分析結果のみ示した)。ネットの各項目に関しては、「政党候補者のネット広告」と「友人知人のソーシャルメディア」「ポータルサイト・ニュースサイト」を除いて、他の5項目で10代は全年齢層平均を下回っている。とくに「政党候補者のソーシャルメディア」については、年齢層別にみて最低の数値である。

結局、10代はネットの利用時間が長く、それに伴いネットから選挙関連情報を得る機会も多いが、「役に立った」という認識が薄い。それよりもテレビや新聞、パーソナルコミュニケーションの方が有益だと感じている。

 

5.信頼できた情報源

10代はネット情報を鵜呑みにしない

【図4】選挙期間中、選挙関連情報で信頼できた情報源

図4 選挙期間中、選挙関連情報で信頼できた情報源(母数は各情報源から選挙情報に接触した人、単位:%)

 

図4は、さまざまな情報源から得た選挙関連情報に関して情報源ごとに「信頼できた (「信頼できた」と「やや信頼できた」の比率の合計)」と答えた人の比率を示したものである。その際、図3の場合と同様、各情報源に接触したと答えた人を分析母数としている。

10代(赤帯)は「テレビ」「新聞」に対して全年齢層平均よりも「信頼できた」と答えた人の比率が高い。彼らの既存マスメディアに対する信頼は決して他の年齢層よりも低いものではなく、個別のネット関連項目のどの項目より高い。有益性評価と同様、「新聞」は、あまり読んでいないが、読んだ人においては十分信頼を置いているということである。

ネットの各項目について、10代が全年齢層平均より信頼度が高いのは、「政党候補者のウェブサイト」と「政党候補者のネット動画」だけであり、あとの4項目では全年齢層平均を下回っている(「政党候補者のネット広告」は同率)。つまり10代はウェブによく接しているが、さほど信頼していない。

彼らは日常的にウェブを利用し、頻繁に情報を入手したり、やりとりしたりしているが、情報の質は玉石混交であり、不確かな情報も多いことを熟知しており、選挙についての政党や候補者、友人の発信を見ても、そのまま鵜呑みにするのは危険だと認識しているということであろう。ある意味でネット上の情報をめぐる「メディアリテラシー」が高いとも言える。

 

6.その他のネット利用

(1)10代はTwitter、LINE、YouTubeからも選挙情報入手

【図5】ソーシャルメディアでの選挙情報接触

図5 ソーシャルメディアでの選挙情報接触(単位:%)

 

図5は選挙期間中、主なソーシャルメディアで選挙関連情報を見た人の割合を示したものである(母数は調査対象者全体)。全年齢層平均に比べTwitter、Line、YouTube、ニコニコ動画の接触率が高く(とくにTwitter)、いずれも年齢層別に見て最も高い数値である。また、その他のソーシャルメディアも含め、いずれかのソーシャルメディアで選挙情報に接触した比率は10代で約半数に上り、年齢層別に見て最も高い(この数値が図2の10代の「ネット全般」の数値を若干上回っているのは誤差と思われる)。

 

(2)各政党ウェブサイトへの接触

【図6】主な政党ウェブサイトへの接触

図6 主な政党ウェブサイトへの接触(単位:%)

図6は選挙期間中、主な政党のウェブサイトへの接触率を見たものである(母数は調査対象者全体)。図では5つの政党を挙げたが、いずれも10代の接触率が全年齢層平均より高く、しかも年齢層別に見て最も高い。

(3)選挙期間中のネットへの書き込み

【図7】.ネットへの書き込みpng

図7 ネットへの書き込み(単位:%)

 図7は選挙期間中、選挙に関連した話題をネット上に書き込んだり、シェアしたりした人の割合を話題別に示したものである(ソーシャルメディアの他、メールやブログ等への書き込みも含む。母数は調査対象者全体)。いずれの話題に関しても、全年齢層平均に比べ、10代の書き込み比率が高く、しかも年齢層別に見て最も高い。

 

7.投票にどの情報源が影響したか

選挙期間中に選挙情報に接した諸情報源のうち、どの情報源が投票の有無に大きく影響したかを分析するために、多変量解析手法の一つのロジスティック回帰分析を試みた。

調査対象者全体に対し、投票の有無を目的変数とし、説明変数としては「テレビ」「新聞」「政党/候補者のポスター・パンフレット」「政党/候補者が発信したネット情報(=2013年から新たに利用が解禁された発信情報であり、「政党/候補者のウェブサイト」等、図2のa~eを指す)」「友人・知人のソーシャルメディア」「ネットのニュースサイト」「家族や友人との会話」の7項目、および統制変数的に、ふだん投票行動と関連の深い「年齢」と「政治関心」3の計9項目を投入して分析した(分析母数は頻度ウェイティング調整済みの有効サンプル数1786)。各情報源については、接触したか否かの2値である。

 

※3「政治関心」は事前調査の設問「政治問題に関心がある」に対し、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人を1、それ以外の回答を0として計算。

【図8】 投票の有無と情報源に関するロジスティック回帰分析結果

図8 投票の有無と情報源に関するロジスティック回帰分析結果(数値は標準化回帰係数)
※アスタリスクは危険率の有意水準(関連があると主張して誤りでない確率)を示し、それぞれは次の意味である。
***:p<.001(0.1%未満)、**:p<.01(1%未満)

図8にその結果を示したが、投票の有無に「年齢」「政治関心」が強く関連し、年齢が高いほど、また政治関心が高いほど投票率が高くなるという関係が示されたのは予想通りであった。情報源としては「新聞」「政党・候補者のポスター/パンフレット」への接触が「投票の有無」と有意水準0.1%未満の確率で強く関連した。「有意水準0.1%未満の確率」とは、「関連している」と主張しても誤りでない確率が1000分の1未満であるというような意味である。また、「家族や友人との会話」も1%未満の有意水準で大きな関連性をもった。一方、「テレビ」「政党・候補者発信のネット情報」の影響力は微々たるものにとどまった。

次に18・19歳に限定して同様の分析を実施した(N=290)。ただし、説明変数から「年齢」は削除している。

 

【図9】18・19歳限定の投票の有無と情報源に関するロジスティック回帰分析png

図9 18・19歳限定の投票の有無と情報源に関するロジスティック回帰分析(数値は標準化回帰係数)
※アスタリスクは危険率の有意水準(関連があると主張して誤りでない確率)を示し、次の意味である。***:p<.001(0.1%未満)

結果は図9に示される通りで、情報源として「新聞」だけが有意な関連をもった。その他の情報源に関する項目では「政党・候補者発信ネット情報」が「テレビ」よりも大きな効果を持っている点が10代の大きな特徴と言えるが、有意な関連ではない。

なお、「家族や友人との会話」の回帰係数がマイナスになっているが、おそらく、友人等と選挙の話はするが、投票に行っても意味がない、などの会話が交わされた可能性が考えられる。

 

 

8.18・19歳の選挙時における情報行動のまとめ

初めて10代が選挙権をもった選挙における情報行動について調査した結果、10代の選挙関連情報の入手先の情報源として(図2)、「テレビ」は全体平均並み、「新聞」は年齢層別に見て、接触したという人の比率は最も低く、「ネット」は個別項目についても、全般的傾向についてもすべて年齢層別に見て最高の数値であった。

しかし、接触した人に限定して、その情報が役に立ったか、あるいは信頼できたかを聞いた質問では、ウェブに関する多くの項目で他の年齢層よりも肯定的な答えをした比率は低かった。とくに「友人・知人のソーシャルメディア」「まとめサイト」については、信頼できたと答えた人の10代の比率(45.7%と59.7%)は30代以上のどの年齢層より低く(ともに、最も比率が低かったのが20代で43.8%と44.8%)、若年層はネット情報を鵜呑みにせず、批判的に受容しており、ネット情報に対する「メディアリテラシー」はある意味で高いことが明らかになった。

選挙情報について、10代が最も接触している情報源は他の年齢層と同様に「テレビ」であり、「信頼できた」と答えた人の割合も平均より高い68.0%であった。「新聞」も10代において接触率こそ低いものの、接触者においては「役に立った(73.0%)」「信頼できた(80.0%)」と答えた人の比率が高く、とくに「信頼できた」は全年齢層中最高の比率であった。ネットの利用時間がテレビを凌ぐほどになった若年層にあっても、たとえば選挙情報など公的色彩の強い情報については、まだ伝統的なマスメディアに対する信頼が揺るぎないものであることが明らかになった。

投票行動との関連では、10代において、新聞で選挙情報に接触した人ほど投票する傾向が強く見られた。これは、新聞で選挙情報に接する若者は、もともと政治に強い関心をもっており、そのような人が投票所にも向かうということであろう。

 

プロフィール

橋元良明橋元 良明(はしもと よしあき)
東京大学大学院情報学環・教授

1955年京都市に生まれる。1978年東京大学文学部心理学科卒業。1982年同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
現在、東京大学大学院情報学環教授。専門分野は、コミュニケーション論、社会心理学。

所属学会は、日本マス・コミュニケーション学会(理事)、社会情報学会(会長)、社会言語科学会(会長)、情報通信学会、総務省 情報通信白書編集委員。

【主な著書】
・『メディアと日本人―変わりゆく日常』(岩波新書)
[以上、単著]

・『日本人の情報行動2015』(東京大学出版会)
・『日本人の情報行動2010』(東京大学出版会)
・『メディアコミュニケーション論Ⅰ』(北樹出版)
・『メディアコミュニケーション論Ⅱ』(北樹出版)
・『メディア・コミュニケーション学』(大修館書店)
・『講座社会言語科学 メディア』(ひつじ書房)
・『ネットワーク社会』(ミネルヴァ書房)
[以上、編著]

・『ネオデジタルネイティブの誕生』(ダイヤモンド社)
[以上、共著]