企業広報戦略研究所 C.S.I Corporate communication Strategic studies Institute

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不測の事態にどう対応すべきか、企業の「危機管理力」を調査

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CSI Report

「Kyodo Weekly」2016年1月25日号より

もし、あなたの会社が事故や事件、自然災害など不測の事態に直面したら…。その日は突然、訪れる。そして、その際の対応の巧拙が企業の存続さえ左右してしまう時代となった。電通パブリックリレーションズ・企業広報戦略研究所は、企業の危機管理の実態に関する調査結果から「企業の危機管理力」を分析した。不測の事態にどう対応するべきか、調査結果からひもといていきたい。

 

危機管理の不備が企業経営に重大な影響を与えることは、多くの企業が強く認識しつつある。企業広報戦略研究所と東京大大学院情報学環総合防災情報研究センターは、2015年3月に「企業の危機管理に関する調査」を共同で実施した。

東証1部に上場する1825社と、日本に拠点を置く外資系企業(資本金5000万円以上)1170社をアンケート対象とし、日本企業246社と外資系企業146社の計392社から回答を得た。この調査では、外資比率49%以上を「外資系」と区分した。

危機管理に関する企業活動を定量的に把握するため「リーダーシップ力」「予見力」など図のような五つの視点で企業の「危機管理力」を独自に数値化。それぞれ10項目の質問の回答を100点満点で評価して「ペンタゴン(五角形)」に書き入れていくことで強み・弱みを分かりやすく表した。

五つの視点は次の通り。

①リーダーシップ力 組織的な危機管理力を向上させる経営陣のコミュニケーション実行力
②予見力 自社に影響を与える可能性がある「危機」を予見し、組織的に共有する力
③回避力 危機の発生を未然に予防・回避する、または危機の発生を事前に想定して影響を低減する組織的能力
④被害軽減力 危機が発生した場合に、迅速・的確に対応し、ステークホルダーや自社が受ける被害を軽減する組織的能力
⑤再発防止力 危機発生の経験と向き合い、より効果的な危機管理や社会的信頼の回復を実現していく組織的能力。

五つの視点を総合した500点満点のスコアで、全392社の平均は198点だった。

分野別では「回避力」の47点が最も高く、以下は「リーダーシップ力」43点、「被害軽減力」39点、「予見力」38点、「再発防止力」31点が続いた。ただし「再発防止力」は、これまで危機に直面したことがない企業が無回答とするケースがあり、その分、スコアが低く算出されている。実質的に最も脆弱(ぜいじゃく)なのは「予見力」とみていいだろう。

 

電力・ガスが最高スコア

回答企業を15業種に分けると、最もスコアが高かったのは「電力・ガス」の396点、2位は「食品」の293点だった。 電力・ガス業界は11年の東日本大震災に伴う原発事故の記憶が新しいが、従来から政府による法規制が厳しい。そのために危機管理体制の整備が進んでいるとみられる。

食品業界では、過去に集団食中毒や“食の偽装”、異物混入といった不祥事が繰り返されてきた。消費者と身近に接する業界であることから、危機に対する意識が高いようだ。 日本企業と外資系企業のスコアを比較すると、日本企業は231点、外資系企業は143点となった。

五つの視点別でみても、日本企業の方が軒並み高いスコアを獲得している。回答した外資系企業の多くは、海外本社の営業拠点という位置付けが多く、本社機能が含まれていないことが一つの要因と考えられる。

 

図1

 

危機経験で取り組みに差

脆弱さが浮かび上がった「予見力」に関する設問では、「社外有識者と定期的(3カ月に1回以上)に意見交換する場を設け、自社の経営や商品・サービスに対する評価や問題点を分析している」は9・9%、「自社にとって『危機』となりうるソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している」も19・9%にとどまった。10項目中7項目は実施率が50%以下だった。 企業にとっての危機を予見できなければ、「回避」「被害軽減」といった活動にもつながらない。リスク(危機因子)の洗い出しを含めた「予見力」の強化は、危機管理体制の強化を目指す企業にとっては最重要課題といえる。

さらに過去に危機の遭遇経験がある企業群と、ない企業群とに分けて、「予見力」への取り組みを分析した。 遭遇経験の有無によって、最も大きな差がついたのは「自社に対する、新聞やテレビなどの報道内容や、記者の意見を、定期的(年に1回以上)に調べている」で、経験企業の60・5%に対し、未経験企業は33・0%だった。危機を経験した企業は、「自分たちは社会からどのように見られているのか」という点からも危機を予見し、対策を講じていることがうかがえる。 危機を予見するには、自社内の価値観だけでなく、法改正などを含めた社会環境の激しい変化にも十分に配慮していく必要がある。社内や業界内では常識とされていることが、企業の危機を招いたケースは昨年も多くみられた。

 

「社外の視点」が鍵

東京証券取引所が定めた上場企業の行動指針「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の適用が始まった15年は「企業統治元年」とも呼ばれた。一方で、企業統治の優等生とされた大企業による会計不正問題、データ偽装など不祥事も目立った。社外取締役や監査役が機能しなかったことが世論の批判を浴び、説明責任の在り方について、社会・メディアと企業側の意識のずれが問題を大きくした部分もある。企業が危機管理力を向上させるには、社外の視点をどう生かすかが鍵となりそうだ。


企業広報戦略研究所は、回答企業に対するフィードバックや危機管理をテーマとしたセミナー、講演活動を行っている。それらの活動は、昨年12月に開催された15年度PRアワードグランプリ(主催:日本パブリックリレーションズ協会)で「イノベーション/スキル部門最優秀賞」を受賞した。

 

執筆

青木

青木浩一(あおき こういち)

企業広報戦略研究所 上席研究員

コーポレートコミュニケーション戦略室 リスク・マネジメント部長

 

 

 

1983年、株式会社電通PRセンター(現・電通パブリックリレーションズ)入社。主に新聞、雑誌メディアを中心に、各種パブリシティ・プロモーション活動に従事。2004年5月からリスク・コンサルティング部長(当時)。企業不祥事にあたり、渦中のクライアントのメディア対応などをサポート。以来、各種広報業務サポート活動のほか、上記のような経験とノウハウを踏まえ、多くの官公庁、自治体、業界団体、民間企業の研修等において職員や企業幹部等を対象とした広報の基本的なセミナー、メディア(インタビュー)トレーニングや危機管理コミュニケーションにおける模擬(謝罪)会見トレーニングなどを遂行中。

2007年10月から2011年9月まで、内閣府 食品安全委員会 緊急時対応専門委員。