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食の不祥事を防ぐ手立ては… 「予見力」「回避力」の視点から

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CSI Report

「Kyodo Weekly」2016年3月7日号より

年明けから「食の安全」を大きく揺るがした廃棄食品の横流し問題。多くの「ごみ」が「食品」に姿を変えて販売されていた事実は消費者に大きな不安を与えた。複数の食品関連企業に波及したこの問題を防ぐ手立てはなかったのか。企業の危機管理力を分析した「不測の事態にどう対応すべきか」で紹介した調査結果から「予見力」「回避力」に焦点を当てて論じてみたい。

 

電通パブリックリレーションズの企業広報戦略研究所が昨年実施した「企業の危機管理に関する調査」で、食品業界の危機管理力は15業種中「電力・ガス」に次いで2番目に高かった。この調査は企業の危機管理力を「五つの視点」(各100点)に分けて500点満点で数値化した。食品業界は「予見力」が53 点で最も低く、「回避力」と「リーダーシップ力」は63点、「被害軽減力」61点、「再発防止力」54点で計293点*だった。全業種平均は198点、トップの電力・ガス業界は396点だった。 この予見力と回避力を組み合わせて、危機を未然に防ぐ具体的な対策では、どういうことが考えられるだろうか。

*小数点以下を四捨五入しているため、合計は一致しない

危機対応の「最初の一歩」

まず予見力について論じたい。調査では「将来、自社に影響を与える可能性がある危機を予見し、組織的に共有する力」と定義した。

信頼して契約した産廃処理業者が、違法行為に走るリスクまで予見するべきかどうかは議論の余地がある。しかし昨年は、くい打ちデータ改ざん問題に代表されるように、グループ会社や子会社、取引先に関わる不祥事がニュースで大きく取り上げられた一年だった。グループやサプライチェーン全体を俯瞰して、危機を予見する必要性を考えるには、良い機会となった。危機を未然に防止するには、あらかじめ事故や事件のリスクを予知・予測し、さまざまな対策を施し、ダメージ吸収力を高めておく回避・被害軽減の行動が重要となる。

一連の危機対応の中でも、特に予見力の強化は最初の一歩であり、企業の最重要課題といえる。しかし食品業界では「五つの視点」のうち予見力が最もスコアが低く、これは他の産業にも共通する特徴だった。例えば、競合企業で発生した危機を分析したり、自社が抱える経営リスクを予測して役員に報告したりといった活動はできているだろうか。廃棄食品の横流し問題に巻き込まれなかった企業も、今回の問題を「他山の石」と捉えて、自社でも起こりうるリスクとして対策を考えていく必要がある。

では予見力を高めるには何をすればよいのか。まず自社に関するさまざまな情報、特にリスク要因を社内から収集し、現状を把握・分析することから始まる。把握したリスクは、発生確率や影響の度合いによって優先順位を付け、対策を講じなければならない。それには外部からの情報取得も重要だ。インターネット、ソーシャルメディアの存在が社会の中で大きくなっており、自社がウェブ上でどのように評価されているかを把握することも欠かせない。

 

社内リスクを「見える化」

リスクを予見したら、次は回避力が問われる。これは「危機の発生を未然に予防回避、または、危機の発生を事前に想定し、影響を低減する組織的能力」と位置付けている。食品業界の回避力は「五つの視点」の中では相対的に高いスコアを示し、これは他の産業でも同様だった。回避力は10項目で評価しており、危機管理の専門家が重視した4項目を重要な順に並べると、このようになる。

⑴全社的な危機管理を定期的に検討する場(危機管理委員会など)を設けている

⑵危機管理の専門部門を設置している

⑶本社と海外拠点・地方拠点が連携した危機回避・予防体制を構築している

⑷自社に影響を与える可能性がある危機への対応について優先順位付けを行っている

このうちの⑴の危機管理委員会は、全業種を通じて54・8%と半分以上の企業が設置していた。組織が大きいほど、また事業領域が広いほど、社内横断的に危機の発生・発現状況や、他社で発生している不祥事などの情報を共有する場を持つことは重要だ。グループやサプライチェーン全体を俯瞰した危機管理、つまりグループコンプライアンスには危機管理委員会のような横断的組織が欠かせない。

この回避力を高めるには、⑴の危機管理委員会や⑵の専門部署の設置が基本的な対策だろう。そこを中心として社内のリスク(危険因子)を洗い出して「見える化」し、注意喚起をするといったことが考えられる。リスクを根絶することはできないが、早期に対応し、処置することが、その後の企業の成長や存続に大きく影響する。 自社に関係する法令が新たに施行された際には、その内容をしっかり把握し、違反に備えるといった行動も重要だ。今年から本格化する「マイナンバー制度」の取り扱いについては、どの企業もあらゆる角度からリスクを想定しておかなければならない。

 

不祥事起こさない風土を

しかし、どれだけ備えていても、危機は起きてしまうものだ。その時は評判・信頼の失墜を最小限にとどめる被害軽減策を講じなければならない。

そこで必要になるのが「マニュアル」だ。危機発生時の体制を定め、どのように情報を開示していくかなど、あらかじめ決めておくべきことは多い。通常の業務マニュアルの中に「事件や事故が起きたら」といった項目を入れてもいいだろう。 これらの予防策を確実かつ定期的に計画・実行していくことは必要だが、最も大事なのは危機管理をしっかりやっていこうという「意識」だ。 意識の啓発・醸成というのは「言うはやすし」だが、実際に効果を上げるのは簡単ではない。これといった特効薬もない。 だからこそ、「もう二度と起こさない」と固く誓っても時間の経過とともに意識は薄れ、不祥事は繰り返されてしまう。社内コミュニケーションを活発にし、組織全体で不祥事を起こさない意識、風土を醸成していく不断の努力が求められている。

執筆

青木

青木浩一(あおき こういち)

企業広報戦略研究所 上席研究員

コーポレートコミュニケーション戦略室 リスク・マネジメント部長

 

 

1983年、株式会社電通PRセンター(現・電通パブリックリレーションズ)入社。主に新聞、雑誌メディアを中心に、各種パブリシティ・プロモーション活動に従事。2004年5月からリスク・コンサルティング部長(当時)。企業不祥事にあたり、渦中のクライアントのメディア対応などをサポート。以来、各種広報業務サポート活動のほか、上記のような経験とノウハウを踏まえ、多くの官公庁、自治体、業界団体、民間企業の研修等において職員や企業幹部等を対象とした広報の基本的なセミナー、メディア(インタビュー)トレーニングや危機管理コミュニケーションにおける模擬(謝罪)会見トレーニングなどを遂行中。

2007年10月から2011年9月まで、内閣府 食品安全委員会 緊急時対応専門委員。