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カンヌリポート ~PRライオンズの審査員室から~ (5)

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カンヌライオンズ 受賞作品の紹介  ①社会的課題に取り組んだもの


電通パブリックリレーションズ
第2ディレクション局次長 井口 理


PRカテゴリでグランプリを獲ったのは、プエルトリコの「The Most Popular Song」です。このプロジェクトは、プエルトリコ最大の民間銀行「バンコ・ポプラーレ」が、国の財政危機を課題背景に、国民全体の勤労意欲を高め、財政再建を図ることで自らのビジネスも好転させようという取り組み。前回、プロジェクトの成果を図る基準として「Change Mind」「Change Behavior」「Engagement」の3つの視点が審査員に課されたことをお話しました。もちろん、アワードを獲得した各エントリーは、それぞれにこの3つの基準をしっかり達成しているのですが、あとはそれがいかに大きく達成されたか、ですよね。その意味でこのプロジェクトは、最後にグランプリ候補となった3エントリーの中でも、やはり課題の大きさや全国民を対象としていることから圧倒的に規模感が異なり、満場一致でグランプリとなりました。「いかに社会を動かしたか」という評価基準がとても反映された結果だと思います。


上の写真はPRライオンズの授賞式での写真です。グランプリ受賞を喜ぶプエルトリコのJWトンプソンのスタッフ(左の3人)と審査員長のGail Heimann氏(右端)です。


同様に、男性に比べて著しく権利の低いレバノンで、女性の権利獲得を目指した「No Rights, No Women」や、米国の人種差別撤回を求める「#MillionHoodies for Trayvon Martin」など、実際の法改正や、数百万の署名を集めるような成果を出したプロジェクトも、その社会的な影響度からゴールドやシルバーのアワードを獲得しています。また、イタリアの「Integration Day」、エクアドルの「Alzheimer Experience」も、ダウン症やアルツハイマー型認知症の疾病啓発という社会的課題に対する活動において、その類稀なるアイデアで大きな意識改革を達成し、評価を得ました。もちろん、「世の中にいいことをしている」ということだけではなく、その施策にはきちんとした戦略が盛り込まれていたからです。前者の2エントリーは、「女性にヒゲ」「頭にフードを被る」などの象徴的なアイコンを使い、フェイスブックなどで主張を拡散させたことで多くの参加者を取り込んでいます。SNSを特別なツールとしてというよりも、情報拡散メディアとして、もはや当たり前に活用しています。また、後者の2エントリーは、患者と自分との関係性を考えさせる投げかけがあります。もし今の生活にダウン症の患者が入ってきたら、あるいは自分にアルツハイマーの兆候が出たら、といった経験をさせることで、非常に身近なこととして“自分ゴト化”させる手法は、日本でいう「戦略PR」の考え方と根幹は一緒に思えます。


PRカテゴリでの評価は、要は、面白いアイデア、新ツールの活用よりも、課題設定から戦略構築、施策の選択といった一連の流れを通じて、最終的にどのような成果を獲得したのかがきっちりと問われていたように思います。


各エントリーについては、以下をご参照ください。


■「The Most Popular Song」(グランプリ)


















就業率が低く、国民の60%が生活保護を受けているプエルトリコ。この不況下、仕事の見つからない人が多い中で、なんとプエルトリコでは「働きたい人を見つけるのが大変」といった由々しき事態に……。ある種、当たり前のようになっているこの状況を変えなければ、自行のみならず国家経済も危ういと考えたこの国最大の銀行、バンコ・ポプラーレが国民の意識改革に挑んだ。怠惰な生活を良しとする国民の意識を、いかに勤労な国民性に変えていくか。その手法がプエルトリコの国民的な人気ソングの替え歌バージョンとは……。世界的に有名なプエルトリコ出身のサルサ・バンド、エル・グラン・コンボのヒット曲「No Hago mas Na(私は何もしない)」を180度転換した勤労称賛の歌詞に書き換え、再レコーディング。無料コンサート開催なども展開しながらこの曲は音楽チャートのトップに返り咲き、プエルトリコ全土に「もっと働こうぜ!」といったポジティブな歌詞が浸透していった。結果、バンコ・ポプラーレのイメージ/レピュテーションも80%向上を果たした。国民への不意打ち、そしてダイアログを創り出す機会提供といったことがポイントではないでしょうか。


■「No Rights, No Women」(ゴールド)


















                 
レバノンでは男女同等の権利ではなく、女性に不利な法律が未だ残っている。この差別を是正するため、3月8日の「世界女性デー」に先駆けた1カ月前からフェイスブック上でキャンペーンを展開。女性たちが口ひげを付け、フェイスブック上の性別も男性に変更し、その差別を訴えた。3月8日には議会の周りに数百名の女性が男装をして集い、この様子は多くのメディアに取り上げられた。結果、7カ月後には女性不利の法律は廃止され、また、DVを禁止する法律制定についても、現在、議会で最終の調査段階に。



■「#MillionHoodies for Trayvon Martin」(シルバー)



















米国フロリダ州で地元自警団に射殺された黒人少年トレイボン・マーティンさんの事件で、正当防衛だと主張する白人男性を警察が逮捕しないことに対し抗議活動が勃発。当時のマーティンさんと同じ「パーカのフードを被った服装」で、講義活動を展開、併せてこの格好によるSNSでの投稿などが呼びかけられ、百万人の署名募集に対してその2倍が集まった。これに連動し、オバマ大統領も事件に対してコメントするなどし、容疑者の逮捕にまでつながった。



■「Integration Day」(ゴールド)




















タリアの団体が、ダウン症患者の社会との融合、すなわち労働力としての活用を訴えるため、3月21日「世界ダウン症の日」にキャンペーンを実施。社会的にもよく知られる企業のCM出演者をダウン症患者に置き換えたCMを事前に用意しておき、当日に延べ334回放映。イリーコーヒーやトヨタ、パンパースなどのテレビCM、同じく新聞広告も別バージョンが展開されたほか、人気番組の出演者そのものを置き換えて放映するなども。これによりイタリア国民の1/3に情報が浸透、また、特筆すべきことにダウン症患者の雇用に関心を持った企業が6倍に跳ね上がった。



■「Alzheimer Experience」(ブロンズ)




















エクアドルにおけるアルツハイマー型認知症の認知啓発のために、“自分ゴト化”を図った事例。とあるスーパーマーケットの通常の商品陳列を一夜で一気に配置転換。「あれ、確かあれはこの辺りにあったはずなのに……」と自分の記憶を疑う来店客。アルツハイマー型認知症が誰にでも起こり得ることだと感じてもらうためのちょっとしたイタズラで、種明かしはレジ回りで行われ、来店客からの寄付を募った。当然、この体験をした生活者の口コミも拡散間違いなしですよね。



■「Wimpy Braille Burger」(ゴールド)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南アフリカ共和国のハンバーガーレストランWimpyには視覚障害者向けのメニューが全店に用意されている。このことを、120万人いる南アフリカの視覚障害者に伝えたいが、健常者には関心の低い事柄で、通常のやり方では情報拡散が見込めない。そこでWimpyはハンバーガーのバンズにゴマを用いた点字をトッピングし、これを視覚障害者に試してもらうことを発想。国内の視覚障害者支援施設に対してこれを提供し、この試みに賛同した視覚障害者支援施設は、彼らが持つ視覚障害者向けの特殊なeメールシステムでこの情報を配信、全体の約2/3に当たる80万人の視覚障害者にこの情報が行き渡った。伝えたい対象へうまくつながる情報ルートの設定が巧み。ちなみに作られたバーガーはたったの15個で投資額は本当に小額です。


次号は「受賞作品の紹介   ②PRに最適なアイデアに富んだもの」です。