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カンヌリポート ~PRライオンズの審査員室から~ (7)

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PRの未来 PRのクリエイティビティとは

 

電通パブリックリレーションズ

第2ディレクション局次長 井口 理

さて、いよいよ最終回となりました。まだまだ裏側の話もありますが、それはまた個別の機会にいろいろお話しさせていただきたいと思います。今回は、まとめということで、特に今年の審査の席で語られた「PRにおけるクリエイティビティ」についてお話しいたしましょう。

「カンヌ・ライオンズ」といえば、広告賞の最高峰。PR関係のアワードをもろもろいただいた私自身も自分にはあまり関係のない「場」として思っていました。しかし今から4年前、そのカンヌにPRカテゴリが創設され、そこでグランプリを獲ったのがあのオーストラリアクイーンズランド州の観光プロモーションキャンペーン「The Best Job in the World」だったのです。当時はその事例に魅了されることが先に立っていましたが、しばらくしてから「これは自分たちの仕事の領域だ!」ということに気づき、我々にもカンヌは近いものとして認識し始めたのです。そして今年、自身が審査員となって「カンヌ・ライオンズ」を訪れることができたのは非常に良い経験でした。

上の写真は、「The Best Job in the World」がカンヌライオンズに提出したプレゼンテーションボードです。

毎年、その審査基準が少しずつ変化しているのは周知の事実ですが、この4年間、特にPRカテゴリでは何を評価すべきなのかをめぐってさまざまな議論がなされてきたようです。2年前には、当時のPRライオンズ審査委員長であった大手PR会社ヒルアンドノールトン(WPPグループ)の元会長兼CEOのPaul Taaffe氏(現在はグル―ポンのコミュニケーションのヘッド)が「カンヌは、より広いマーケティング領域をカバーするのだから「アドバタイジング」をフェスティバル名より削除するべきなのではないか?」との疑問を呈したなどということもありました。実はその意見はすぐに反映され、翌年より「カンヌ・ライオンズ・インターナショナル・フェスティバル・オブ・クリエイティビティ」と名称変更されています。

実際、審査を担当する各人において、それぞれが持つ「PRの定義」というものが微妙に異なり、この持論を戦わすことから審査は始まります。実際みなさん、この議論が大好きでそこにかける意気込みは半端ねー!って感じでした。そんな中、嫌われたエントリーは「カテゴリ違い」のもの。すなわち、広告主導があきらかなキャンペーンだったりします。これが現れたりすると、「この人たち、エントリー先間違えちゃったねー」と皆が即座に、しかも強く反応したりします。PRは、「アーンドメディア、シェアードメディアをどう効率的に活用しつつ、話題化し、目的を達成させるか」が本質で、ペイドメディアが入っているとそれだけで「自分たちの領域外のもの」と認識してしまうのです。

もちろん人により、その強弱は異なりますが、やはりPRカテゴリのグランプリは生粋のPR会社が獲ってしかるべきという意識は、ベースに存在していたと思います。ところが、フタを開けてみるとアド・エージェンシーのアワード獲得ラッシュでした。先にあげた「The Best Job in the World」もCumminsNitro(現在はSapientNitro)というブリスベーンの広告会社のエントリーでした。「なぜなんだろう?」とここで審査に参加したPRパーソン達の議論が再燃しました。「いわゆる本質的なPRは、どうしても地味目に見える」「エントリー作品のプレゼンアイテムで、アド・エージェンシーにテクニック的に見劣りしているのでは?」などなど。その中からささやき出されたのが「ペイドメディアも含めて、クリエイティビティが今後重要になってくるのではないか?」というものでした。つまり、「PRはこういうもの」と頑なに主張するのではなく、自分たちからPRの境界、定義をもっと広げるべきステージに来ているのではないかという意見です。

ここでいう「クリエイティビティ」とは何でしょうか? これも各人によっての定義は大きく異なると思います。広告におけるクリエイティビティが、「シンプルだが大胆で、強い、エッジのきいたアイデア」にあるとすれば、PRにおけるクリエイティビティとは、まさにその逆手にあるものではないでしょうか。すなわち、「複雑で繊細、また、常に社会背景に適合させながら、時には長期にわたって、また、刻々と変化する状況に対応すべく途中で変更や調整をしながら戦略的に発信するメッセージ」にあるといえます。

私自身は、PRのクリエイティビティを、「異なる利害を持つ、さまざまなステークホルダーに対して、どのようなメッセージを、どのようなコンテンツに乗せ、どのような背景文脈(コンテキスト)において伝達するのか。伝達のチャネルや場、タイミングはどうすればよいか、またそれによって、個々のステークホルダーがどのような理解をし、情報交換によって化学反応を起こし、意識変化/態度変容まで辿りつくのか、といった立体的構造そのものを見通す能力」なのではないかと考えています。すなわち、ステークホルダーをアドボカシー(擁護・支持)へと向かわせる、測定可能で「タンジブルな(実体がある)成果を残すためのクリエイティビティ」こそがそこに求められていると思うのです。この定義に基づけば、やはり「異なる利害」「刻々と変化する状況」といった複層的な側面を持つ領域でこそ、PRの真の威力が発揮されるのではないでしょうか。

このような議論と並行して、実際のPR業界でもクリエイティブ専門部署を持つところが出てきています。しかし、ここでいう“クリエイティブ”とは広告業界の“クリエイティブ”のことです。現状、大手PR会社で“クリエイティブ”の部署をたちあげた事例をみてみると、大手広告会社のクリエイティブ・ディレクターを引き抜いてつくったものが主流だからです。広告業界における“クリエイティビティ”をPRにも導入すべきという考えに基づいているものかもしません。

他方、あまりにも広告的な意味での“クリエイティビティ”をPRの領域で重視するのは好ましくないという意見もあります。特に、クライシス・コミュニケーションズやIRの領域でクリエイティブすぎると、株主や消費者の認識をミスリードする恐れがあるからという考えです。コーポレート・コミュニケーションズにおいては、クリエイティビティよりも、トランスペアレンシー(透明性)を重視すべきだということなのです。こういった意味で、カンヌPRライオンズは、マーケティング・コミュニケーションズのバロメーターにはなりえても、コーポレート・コミュニケーションズの評価には適さないという見方をする業界リーダーもいます。

ところで最近、欧米のPR業界ではPR会社を対象に「クリエイティブ・セクションの有無」「PRにおけるクリエイティビティの定義とは?」などを問うアンケートも行われており、この結果も近々発表されるはずなので、非常に楽しみです。今まさにこのような議論がPR業界で始まっており、ますますこの業界が大きく変化、進化するステージにあると実感させられます。

一方で、「カンヌ・ライオンズ」のPRカテゴリに話を戻せば、そのエントリー方法に今後改善が求められそうです。シンプルで大胆、スタント的なアイデアが重視されるカンヌにおいては、視聴覚に訴えるプレゼンテーションが重視されるがゆえに、他の業界アワードと比べ、エントリーサマリーの文字数が少なくなっています。背景文脈の多様さを語るには、現在のルールで決められている900ワードで語り尽くすのは困難であり、これはエントリーに対する理解不足を促進します。このことについては、先日の審査員を対象とした審査プロセスについてのアンケートにおいても改善提案をしている状況です。

実際に世界的なPRに関するアワードでも、「カンヌPRライオンズ」と国際PR協会が主催する「Golden World PR Awards for Excellence (GWA)」といったPRの業界団体が主催するアワードでは、その評価基準が二極化しているように感じます。今年の「カンヌ・ライオンズ」の審査基準で挙げられた①Strategy & Research、②Execution、③Idea & Originality、④Resultについて見てみると、前者の賞では②Execution、③Idea & Originalityが、後者の賞では、①Strategy & Research、④Result に重きが置かれて審査されている感じです。もちろん、一気通貫で評価するのが正しいのですが、特長的に上記のような感覚が定着している気がするのです。

ただ先にもあげた、「The Best Job in the World」は2009年6月にカンヌでグランプリをとっただけではなく、その対極にあるGWAでも2010年11月にグランプリをとりました。ここでは、キャンペーンがローンチされてから1年半経った時点でも、その効果が持続していたことが評価されており、PRとしての原点をしっかり押さえたものとして理解されたわけです。また、このキャンペーンは、観光プロモーションでありながら、古典的な“青い海と白い砂浜”といったありふれたメッセージのみを出していくのではなく、世界的に共通するイシュー、例えば、若者の失業問題や、サンゴ礁の保護といった環境問題にもスポットをあてると同時に“ウミガメと泳いで給料をもらおう”といったパワフルなメッセージももちあわせていました。その意味では、本質的に双方の基準を満たしたキャンペーンも当然のことながら存在するのだと思えた次第です。そういった仕事で、ぜひPR関連の賞を総なめしてみたいところですね!

終わり