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CSRコミュニケーション情報レポート:Vol.3

サプライチェーンCSRからみるビジネスと人権~根幹はコミュニケーションにある

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コミュニケーションデザイン局 シニアコンサルタント 大川陽子

1. ビジネスと人権~企業のリスクの広がり

2013年4月、バングラデシュで大規模なビル倒壊が起こり、さまざまなメディアで報じられた。死者は1000名を超えたといわれている。賃金の安さから“ネクストチャイナ”と注目されるバングラデシュは“世界の縫製工場”とも称されるように、数多くのアパレル、小売が製造拠点としている。このラナプラザビルには、5つの縫製工場が入っていた。ビル自体が違法な建築状況にあり、避難勧告が出ていたにもかかわらず放置していた疑いで、ビルの所有者や縫製工場の経営者は逮捕されている。また、従業員が低い賃金で働かされている、非常口に鍵がかけられたままであった等、人権や労働慣行に関わる不備も指摘されている。そうした背景から、労働者のデモにも発展。これらの状況を鑑み、バングラデシュで生産委託などを展開している欧米企業が撤退しているとも報じられた。

このように人権や労働慣行等の社会課題が浮き彫りになるとともに、縫製工場と取引があったグローバルアパレルや小売にとって、さまざまなリスクが発生した。劣悪な労働環境の放置、安い賃金での労働の強制、児童労働の容認といった社会的責任が追及されており、レピュテーションに対する影響は大きい。また、事故後の操業停止等に伴う事業継続に与える影響もでてくる。人権、労働慣行にかかる問題は経営リスクにつながっている。

日本においては狭い範囲で“人権”を捉えがちであるとされるが、世界的な動きとして“ビジネスと人権”に対する意識は高まりつつある。2008年、ハーバード大学のジョン・ラギー教授により作成、国連人権委員会にて承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、「ラギー・レポート」といわれ、2010年に発行されたISO26000(社会的責任に関する手引)にも影響を与えている。今や“人権”は、CSR推進を含め企業活動において根幹となるテーマとなっているのだ。

2. 社会的責任と、影響力の範囲の広がり

環境問題から人権、労働慣行まで、事業活動に関わる社会的責任の範囲は広い。そして、影響のある主体の範囲も広がってきている。サプライチェーンからバリューチェーン(川上~川下(販売先))までの取引全体を踏まえた社会的影響力を捉えていくことが求められている。ISO26000においては、バリューチェーンは、『製品またはサービスの形式で価値を提供するか又は受け取る一連の活動又は関係者の全体』と定義されている。関係する主体は、供給業者、受託労働者、請負業者等も含まれるとともに、商品・サービスを受け取る顧客や消費者、取引先も含まれてくる。例えば、バングラデシュでの状況のように、製造現場が劣悪な労働環境であることが影響し、製造を止めるようなことになれば、一連の活動は停止し、価値の提供はできなくなる。事業活動全体に関わる主体と、提供される価値を踏まえて影響度合いを把握していくことが求められている。

(参考:「解説ISO26000~社会的責任に関する国際規格」日本経団連タイムス 2010.10.14)


3. 基盤となるのはコミュニケーション

事業活動全体で、人権や労働慣行をはじめとした社会的責任と影響の範囲を広く捉えていくことは強く意識すべき点である。が、原理原則や国際規格といった観点から入ってしまうと、難しく捉えてしまいがちではないだろうか。元ナイキジャパン社でCSR 調達を担当、その後バーバリージャパンでサプライチェーンにおける人権課題を中心に担当し、現在は㈱Energetic GreenにてCSRに関する研究を行っている和田征樹氏は、「いままで各企業がやってこなかったことではない。例えば工場においては、経営者が正しいことを話しているか、経営者が従業員と話しているか。労使間のコミュニケーションが大切。数値だけで判断できるようなものでもないのが現実」と語る。現場から捉えれば、組織単位ではなく、個々人を単位に、密なコミュニケーションをとりながら事業活動を行っていくのは大前提といえる。また、こういったコミュニケーションを行うプロセスや現場の声も踏まえ、社内外のステークホルダーに情報発信していくことが求められる。それは、リスク回避のみならず、よりよい事業環境づくりにつながることになる。

グローバルに展開する企業のみならず、日本国内をメインに展開する企業も同様。経営トップ自ら、人権や労働慣行への対応を踏まえつつ、従業員をはじめ、あらゆるステークホルダーに向き合い、よりよい関係づくりを行っていく必要があることを改めて意識しなくてはならない。

筆者 大川陽子プロフィール

(株)電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局シニアコンサルタント。

日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー。

非鉄金属メーカーの環境関連部門、企業の環境対応等推進するNPO、
コンサルティング会社(社会・環境問題をテーマとした官公庁、自治体、
企業コンサルティング)を経て電通PR入社。CSRをテーマとしたコミュニケーション支援
に関する企画運営、コンサルティングを担当。