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CSRコミュニケーション情報レポート:Vol.9

サプライチェーンCSRからみるビジネスと人権③

~繊維業界において、先進的な取り組みがスタート!

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CSR

 

コミュニケーションデザイン局 シニアコンサルタント 大川陽子

本レポートでも何度か触れているサプライチェーンCSR。やはり、ホットなテーマである。2008年の国連人権委員会にて承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」通称「ラギー・レポート」、その影響を強く受け2010年に発行されたISO26000(社会的責任に関する手引)を踏まえた各企業の動きは、CSRにおける労働・人権の観点が最も注視すべきテーマであり、もはやグローバルに展開する企業にとって、必須事項の検討テーマであることを示している。

特に、欧米企業が主要顧客であり、生産・製造拠点を海外に置く企業にとっては、差し迫る課題である。そして、非常に難関なテーマだ。今までのビジネスの流れ・取引先との関係性を踏まえつつ、各国の社会状況、労働法はもちろん、文化の違い、働くことに対する意識の違いまで考慮にいれながら対応していかなくてはならない。

業界によっても、労働力に対する依存度や年間の生産調整の困難度等によって、展開しやすいところとそうでないところの差があるのではないだろうか。なかでもハードルの高い業界の一つと思われる繊維業界において、先進的な動きがみられる。素材の開発、調達から製品化に至るまでのサプライチェーンをグローバルに展開している帝人フロンティアの「CSR調達戦略プロジェクト」の動きだ。

 

帝人フロンティアの挑戦~繊維業界×商社として初。取引先工場向けにサプライチェーンCSRセミナーをアジア各国で展開

 

2015年6月16日、ベトナム・ホーチミン市で「サプライチェーン・CSRセミナー」が開催された。

本セミナーは、帝人フロンティアが2012年から全社横断で推進している「CSR調達戦略プロジェクト」の一環として開催するもの。現地の縫製・刺しゅう工場や素材メーカーなど取引先におけるコンプライアンス(法令順守)と人権保護の徹底に向けて意識・知識を高め、共有する場づくりを目的として展開している。長年付き合いのある工場をはじめ、これから工場における実態調査、監査等関わりを広げていくにあたってのきっかけづくりであり、まずはセミナー形式で包括的に展開するものだ。ベトナムでは昨年12月にも実施されており、今後、中国やインドネシア等での開催も予定している。

【帝人フロンティア ニュースリリース2015年06月11日】
国内外におけるCSR調達の取り組みを強化 ベトナムで「サプライチェーン・CSRセミナー」を開催
 

当日は18社37名が参加。午前中は、セミナー形式で行った。世界250社を超える会員企業とともにグローバルのネットワークを通じて公正で持続可能な世界の構築に向けて活動しているNPOであるBSR(Business for Social Responsibility)の金氏がCSRの潮流とBSRのベトナムでの活動「HER Project ~女性労働者のためのプログラム」(http://herproject.org/)について、ベトナム労働省Bui Doan Trung(ブイ ドアン チュン氏)がベトナムの安全衛生法に関する最新情報について、そして、JICAからベトナム労働省に派遣、人身取引対策ホットラインを担当する小川氏が、人身取引がさすところの意味や現況に対する正しい理解と求められる工場経営者の意識改革、業界リーダーとしての期待について講演を行った。

①セミナー風景 ②パネル展示

主催者である帝人フロンティア繊維素材本部テキスタイル第二部部長の杉本氏が冒頭に挨拶。同社の「CSR調達プロジェクト」のキーワードでもある外国人技能実習制度、児童労働問題について触れ、アメリカをはじめ海外からの〝人身取引の懸念〟についてコメントした。外国人技能実習生を含めすべての労働者の尊厳、公平性が求められる点を強調、『海外から日本企業に向けられる視点も踏まえ、不法な労働搾取は無視できない問題であり、取引先の皆さんと共に検討し、共に取り組んでいきたい』とのメッセージが送られた。
③杉本氏

【参考】
2013年4月24日のFashion Revolution Day における企画(4月24日=バングラデシュで縫製工場が入っていたビルの大規模倒壊が起こり、1000人以上の死者を出した日)

「The2 Euro T-Shirt-A Social Experiment」(2ユーロのTシャツがつくられる背景を知ったうえで、購入するかどうか社会実験)

 

午前中のセミナー終了時には、帝人フロンティア・ベトナム代表取締役社長である糸川氏から『今後、工場におけるますますの人権、労働環境の改善が必要と考えている。みなさんと一緒に取り組んでいきたい』というメッセージとともに、今回の参加者に対して研修証明書を発行する旨が伝えられた。

④糸川氏  ⑤セミナー集合写真

 

サスティナブル・ビジネス(持続可能なビジネス)に向けて~CSR推進は経営の効率化につながる

午後は、帝人フロンティア・ベトナムの縫製工場の視察を行い、参加メンバーとの意識共有、日々の業務改善のヒントを共有する場づくりを行った。

同社は、帝人フロンティアの100%子会社であり、TFRベトナム駐在員事務所とFASHION FORCE NO. 1 FACTORYを統合し2013年2月に新法人としてスタート、主に衣料品委託加工を行っている。ワーカーは428名。もともと、グローバルスポーツメーカーからの発注がきっかけでスタートした工場であり、品質のみならず、人権・労働環境への配慮を意識した工場であった。昨今、顧客からの要望がさらに高まり、CSRに関わる環境整備の強化が必要になってきているという。

【参考】帝人フロンティア WEBサイトより
Global Eyes  海外駐在員からみた世界~東南アジアからのレポート
アジアの新たな牽引拠点として注目されるベトナムから

現在、ベトナムにおける規制強化の流れとあいまって、年間の残業時間の見直しを検討。ワーカーの働き方、働きやすい環境づくりに力を入れている。

 

これらの現状も踏まえつつ、視察後、参加者から質問があった。

 『残業時間の見直しを行うことによる経営への影響は?』

 帝人フロンティア・ベトナムのセールスマネージャー兼島氏は、『影響は少なくない。ただし、働き方の見直しにつながり、仕事の効率性の面で良い影響がある。品質での勝負だけでなく、人権・労働環境に配慮した生産活動を行うことで発注元のブランドイメージを保持することは優先事項。それは、安定供給につながり、競争力につながる要素である』と回答。ただし『効率をあげるためには、発注元とともに取り組んでいくことも重要であると認識している』とコメントしていた。バリューチェーンの視点も持ちつつ取り組んでいくことが重要なのである。あわせて、工場におけるキャパシティビルディング(組織基盤強化)に努めていくことにも触れられていた。

⑥視察風景

参加者からは『残業時間が減っているにも関わらず効率化が図られている点は見習いたい。見過ごしがちな観点が改めて認識できた。工場に持ち帰って積極的に取り入れていきたい』とのコメントがあった。

⑦視察ミーティング風景

 

品質・納期が最重要視される現状のなかで、一見すると非効率と見えてしまう人権・労働環境への配慮になぜ積極的に取り組むのか。

 杉本氏は、『CSR推進は経営の効率化につながる』と語る。『ただし、取引先の工場のみならず、社内における理解を広め、全社員に意識を浸透させるには時間がかかることは否めない』

帝人フロンティア内で展開されているCSR調達プロジェクトでは、社内研修「繊維ビジネスカレッジ」と称しCSR調達の必要性、グループ会社を含め外国人技能実習制度について学び、外国人実習生に対するインタビューを含めたグループ会社の調査・監査を行っている。あわせて国内取引先へのアンケートも実施、国連グローバルコンパクトジャパン・ネットワークのサプライチェーン分科会への参加、海外取引先の調査・監査も行ってきた。今後も、現場での調査を徹底し、現場とともに改善していくことに力を入れていくという。
『今後も〝ワーカーの働きやすさ〟のために改善を繰り返していくことで、サスティナブルなビジネスの創出につなげていきたい』と熱く語ってくれた。

 

本プロジェクトに関わってきたアパレル業界のCSR調達に長年携わり、現在コンサルティングを手掛けている株式会社エナジェティック グリーン共同代表の和田氏は、

⑧和田氏

『今回のように、多くの取引先が一堂に会し、工場を視察しながら互いに高めあう機会を設けることは、今後の工場の実態を詳細に把握していくためのファーストステップとしては効果的である』と語る。また、さまざまな工場の実態調査、監査を経験しているなかで、『企業側として伝えたいことと、工場側の現状、経営者の思いとのギャップを感じることも多い。そのためには、実態調査を重ね、現場の状況を把握することが重要。工場側とのコミュニケーションを密にしながら、ギャップを埋めていくプロセスが大切である』と今後の課題にも触れていた。あわせて『1社で取り組んでいくことに限界がきている。日本企業全体でプラットホームをつくっていくべき』と指摘。さらなるグローバル展開に向けて、日本の取り組みとしてアピールできるような大きな枠組みでの推進が必要であると語っていた。

 

グローバルサプライチェーンのなかで、商社が関わるのは日本ならではの特徴である。CSRの観点で先を行く欧米をはじめとしたグローバル企業から発注を受け、アジア等における生産現場につなぐ立場として、商社の役割が問われる。CSRの観点を経営のメリットとして、サプライチェーンのなかにうまく組み込んでいくファシリテーターとしての役割を担うことができれば、日本の特殊性を強みに変えていくことができるのではないか。帝人フロンティアの取り組みには、その点を垣間見ることができる。

帝人フロンティアの挑戦に、今後も注目していきたい。

 

最後に、パブリックリレーションズの観点から、今後のサプライチェーンCSRの展開に向けて。繊維業界・アパレル業界をはじめ、今後、グローバルに展開する企業に求められる要素として、以下の点を重視したい。

 

◇ 発注側、取引先、取引先の工場のワーカー、自社社員を含め、共通のゴールを認識し、関係主体間のコミュニケーションの強化を。あわせて、プロセスから積極的に情報発信していくこと。

◇〝自社発〟の視点のみならず、業界全体の動向もふまえつつ、社会課題をとらえたうえでサプライチェーンCSRの現状を伝え、バリューチェーンの視点をもって生活者の意識変革にも目を向けた情報発信を

 

サプライチェーンCSRは中長期的視点をもって取り組んでいかなくてはならないテーマではあるが、関係各主体のコミュニケーションを通して、よりよい関係づくりを構築していくことがサスティナブル・ビジネスの基盤を支えていくことは間違いない。

 

以 上