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外国公務員贈賄問題と刑事司法の国際化

2009/07/17

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絹川健一
TMI総合法律事務所/Simmons and Simmons London 弁護士
(元法務省刑事局付検事)

日本の企業人が、米国でFCPA法(連邦海外腐敗行為防止法)により処罰され、カルテル罪と併せて刑務所に服役することとなった。
日本でも、摘発が見られるようになった外国公務員贈賄事件。この動きをどのように理解すればよいのか。

この問題の源流は、1970年代の米国にまで遡る。ウォーターゲート疑惑等を契機として、米国政府が企業の海外における不正行為について一斉に調査した結果、様々な腐敗の実態が明らかとなった。
議会は、米国企業による海外ビジネスの信頼を回復するために、Foreign Corrupt Practices Act of 1977(FCPA法)を制定した。司法省は、FCPA法を駆使して、多くの企業に対し、刑事罰及び民事制裁を科した。
企業の多くは自衛のため、コンプライアンスプログラムを策定し、違法行為を予防するようになった。すると議会は、米国で厳しい規制をかける一方で、他の先進国の企業が野放しの状態であれば、米国企業のみ、海外ビジネスでの競争力が減退することを危惧した。
そこで、米国は、80年代後半、OECD(経済協力開発機構)に対し、米国と同様の法規制を先進国においても導入するよう働きかけ、OECD内で約10年にわたる議論を経て、97年、OECD外国公務員贈賄防止条約が採択され、日本を含む33カ国が署名した。
各国は、条約を担保するための国内法を創設し、日本は、不正競争防止法の一部改正により罰則を設けた。こうして条約は発効したが、 OECD各国はこの問題の解決を図るため、自国内で努力するだけでなく各国相互で加盟国の監視をすることとし、法制面及び運用面で定期的な相互審査が行われている。
このように紹介すると、「なんだ、結局アメリカ、そしてOECDからの外圧か」、という声が聞こえてきそうである。確かに、この種の事案の摘発実績により、日本もしっかりやっているというアピールになり、OECD定期審査での説明が楽になる、という見方はできるだろう。しかし、この問題をもう少し大きく、刑事司法の国際化という角度で考察してみると興味深い。

「刑事司法の役割は、自国の法秩序を守ることにあるのか?」と問われれば、答えはイエスであろう。では、「刑事司法は、自国の中で起きた事件のみを対象とすれば足りるのか?」と問われれば、答えはシンプルではない。
この点、刑事司法は、刑罰という峻厳な国家権力を行使するものであるから、基本的には、各国とも自国との一定の利害関係を持つ領域を守備範囲として、その範囲で権限を行使するべきであるという考え方は概ね納得を得られるだろう。
自国内で発生した事件は自国で解決するべきだし、自国民がよその国で犯した殺傷事件等の重大事件についても一定の関心を持つべきであろう。実際、日本も近年、公海上で発生したある不幸な事件を契機として、自国民が国外で重大犯罪の被害者となった場合にも関心を持つべきだとして管轄を広げている。
本稿のテーマとなっている外国公務員贈賄問題にしても、国外犯処罰規定を追加するなど、守備範囲を拡大・整理してきた。問題はこの「守備範囲」と「実際の摘発」をどこまで広げていくのか、である。

刑事司法は国の伝統・文化と国民性を反映したものであるだけに、誰しも自国のものを標準であると考えがちであるが、国際的に比較するとき、日本ほど司法に無謬性を求めてきた国はむしろ稀であるともいえるだろう。
一方、ラフ・ジャスティスと呼ばれる米国は、これと対極的なアプローチを採ってきたといえる。日本が、これまで外国公務員贈賄の摘発実績が芳しくなかったことは、この精密司法の伝統と無関係ではない。元来、贈収賄は被害者なき犯罪と言われ、通常目撃者も期待できない立証困難な犯罪類型に属する。
その上「外国」の事件となれば、収賄者本人はもとより動機や背景を裏付ける関係者、関係書類などの証拠も外国に所在する場合が多い。日本の精密司法で有罪を得るための証拠を足場の悪い海外から収集するとなると、もともとの立証のハードルがかなり高いのに加えて障害も多い。だからといって、国内で裁く以上、海外の事件だけ別扱いにしてラフに審理するわけにもいかないだろう。
この点、米国では、司法取引・有罪答弁により多くの事件は陪審法廷を経ることなく、証拠調べを省いて有罪認定できるので、効率的で、当局にとってのハードルが低いといえよう。企業にとっても、早期解決によりイメージの回復を図りたいであろうし、先の読めない陪審よりも今後の道筋が見えやすい司法取引ルートを選ぶ方が合理的である場合が多い。
ある程度の証拠で効率的に処理できるから、海外の事件への対応についても大風呂敷を広げることができる。実際、FCPAについても、「米国内で株式を発行している企業であること」とか「米国内の口座を利用したこと」といった、いわば米国の利害に触れただけでも米国の処罰対象とするとしているし、また、現実に摘発することも可能である。こう考えれば、100件を超える起訴件数も首肯できよう。
仮に、同じ件数について日本並みの精緻な捜査を実施し厳密に裁いたとしたら、膨大なリソースを費やすことになるに違いない。

他方で、日本も、贈賄防止条約に批准している国として、担保法の積極的運用を求められているという現実も避けて通れないだろう。最近の摘発の動きは、山積する幾多の課題の中で、外国公務員贈賄問題についても積極的摘発が望まれているという国際的視点が当局の中にも根付きつつあること示しているといえよう。
同時に、外国当局との信頼関係の醸成、迅速な捜査共助の実施、捜査の過程あるいは当局との折衝に必要な語学力の向上といった体制も整いつつあるとも言える。

条約は、自浄機能が未成熟な途上国において、「贈賄が国際商取引において広範に見られる現象であり、深刻な道義的及び政治的問題を引き起こし、良い統治及び経済発展を阻害し並びに国際的な競争条件を歪めている」との認識を前提とし、先進国が協力して問題解決に当たることを目指している。日本の企業は、一連の流れについてきているだろうか。
この問題をめぐる主要国の法制、当局の摘発傾向等、国際的潮流を正確に理解した上で、営業の現場の実情を直視し、必要であれば過去の経緯にとらわれることなく、英断を持って、問題が大きくなる前に健全化を図ること。
トップから営業の第一線に至るまで、立場に応じたリスク察知能力と危機管理能力が問われている。

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