うたかた思考

牧口 征弘

牧口 征弘
(代表取締役社長執行役員)

日々浮かんでは消えていく思いや考え。仕事の糧になるものもあれば、そうでないものも。
どう活かすかは自分次第なのかもしれません。

暗がりの中で光るもの

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 映画館に行かなくなって久しいです。理由はもちろん、この社会状況です。そうなってくると不思議なもので、家で映画を観ることも少なくなってしまいます。最初のうちはネット配信等を活用していたのですが、気が付けば遠ざかるばかり。月額利用料だけが引き落とされていきます。

 何故こんなことになっているのか? 私の場合、映画を観る本来の場所が映画館である、ということに尽きると思います。いそいそと座席に向かい、黙々と独り数時間、光と影の世界に対峙(たいじ)する。この経験価値の密度が、やはり劇場でこそ高い、という事実に改めて気付かされました。

 故・淀川長治氏は、何かの折にこうおっしゃっていました。「映画なんて好きな子は暗い人が多いんですよ。暗い中でじっとしているんですから」。それを聞いて妙に納得した記憶があります。

 と言いつつも、先日ネット試写で拝見したのが、ホン・サンスの新作「逃げた女」。韓国のエリック・ロメールの異名をとる監督は、今回もその独特のスタイルで楽しませてくれました。

 同じセリフの反復、似たシチュエーションの繰り返し、唐突なクローズアップ等々、ホン・サンス節の特徴は数あれど、どの作品にも一貫しているのは、徹底した説明の排除。それによって、観る側は想像力をフルに活用しなければならず、解釈も一様ではありません。

 つまり、作品を完成させるのは、作家ではなく観客であるともいえます。まさにこの点こそが、いわゆる不思議映画でありながら、多くの人の心をつかむ理由です。

 この映画のラストにも(いや全編そうなんですけど)、観る側に問い掛けてくるシーンがあります。ミニシアターの座席で、独り映画を観る主人公。何を考えるでもなく、いや、何かを深く考えているようでもあり。スクリーンの光の照らされる表情に何を見るのか。ここまでのドラマの展開を反すうしながら、しばらく思考を楽しめる仕掛けになっています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。