企業広報戦略研究所 C.S.I Corporate communication Strategic studies Institute

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データで見る「危機管理広報」活動のトレンド

リスクの予見による、攻めの「危機管理広報」の重要性

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リスクマネジメント

プロフィール

電通パブリックリレーションズ リスクマネジメント部 プロジェクト・マネージャー兼 企業広報戦略研究所 上席研究員

坂本 陽亮 (さかもと ようすけ)

広告会社、金融系リスクコンサルティング会社を経て、2014年に電通パブリックリレーションズに入社。専門分野は、メディア対応やイベント運営におけるリスクマネジメント。組織内シンクタンクの「企業広報戦略研究所」では、企業のリスクマネジメント活動に関する調査分析も担当している。


 

2017年の改正個人情報保護法の施行、2018年のコーポレートガバナンス・コード改訂、日本版司法取引制度等、近年、企業のガバナンスを取り巻く環境の大きな変化が相次いだ。また、様々な制度やITの浸透も著しい。内部通報制度の利用、ソーシャルメディア上での暴露等により、企業にとってある種の「公表したくない情報」は結果として様々な形で世間に染み出てしまうケースも多く、企業には、より一層の透明性をもった経営とコミュニケーションが求められる時代となった。他方、情報の利活用に関する関心が高まりを見せる中、実際に個人情報を利用したサービスに対する社会の感度は厳しさを増しており、ビッグデータ活用にまつわる様々なトラブルが表面化している。社会との合意形成に向けたコミュニケーションは、今、多くの企業にとって重要な経営課題となっている。

本稿では、こうした企業のコミュニケーション課題を扱う「広報」と「危機管理」の関係について、企業の広報活動に関する調査データを参照しながら、トレンドを整理してみたい。

広報の活動状況に関する実態データ

企業の広報活動を研究する電通パブリックリレーションズの社内組織「企業広報戦略研究所」では、2014年、2016年、2018年に、「企業の広報活動に関する調査」を実施している。

「広報」はどのような仕事をしているか、ということについて、一つの企業内でも認識が一致しないことも多く、「広報」の仕事の定義は非常に難しい。しかしながら、この「何をやっているかわからない」状況が、企業内において広報活動の障害になっているのではという課題感から、それを明らかにするために始められたのがこの調査である。

本調査では、企業にとって重要な80項目の広報活動について、上場企業の広報責任者を対象に記入式のアンケートを実施。アンケートは匿名で処理を行い、最終的に、業種や広報活動の活発さによって、注力する広報活動にどのような差が生じてくるか等を分析している。

分析において、80項目の広報活動は、10項目ずつ、計8つのカテゴリ(広報力)に分けて整理される(図表1)。本稿ではこのうち、特に「危機管理力」に焦点をあて、企業において行われている活動の状況をまとめていく。

図表1:「企業の広報活動に関する調査」結果概要
出所:企業広報戦略研究所(電通PR内)

(「危機管理力」の10項目)

  • 継続的に緊急時シミュレーショントレーニングを実施している(広報以外の部門を含む)
  • 継続的に模擬緊急記者会見を実施している(メディアトレーニングなど)
  • 自社の経営リスクを継続的に予測している
  • ソーシャルメディア用の運用ガイドラインやリスク対応マニュアルが整備されている
  • 従業員やパート・アルバイトに対し、倫理観や危機意識に関する啓発活動をおこなっている
  • 業界・競合企業で発生したリスク事案を把握・研究している
  • 広報対応についても具体的に記載された危機管理マニュアルが整備されている
  • 危機管理委員会等が継続的に開催され、広報部門が参画している
  • BCP(事業継続計画)の整備・運用に広報部門も関与している
  • 緊急時の社内情報連絡網が整備されている

出典:企業広報戦略研究所(2016)

「戦略思考のリスクマネジメント」日経BPコンサルティング

「企業の広報活動に関する調査」において「危機管理力」として設定している10の項目は上記の通り。
(調査の詳細は右記URL参照:https://www.dentsu-pr.co.jp/releasestopics/news_releases/181002.html

約半数の企業で「広報」と「危機管理」が連携

企業における「広報」と「危機管理」の連携状況について参考となるデータとして、広報部門における業務テーマ選択率がある(図表2)。これは「企業の広報活動に関する調査」において毎回回答頂いている項目で、広報活動のトレンド把握の参考になる。

図表2:業務テーマにおける「危機管理」選択率と、「危機管理力」項目実施率の推移
出所:企業広報戦略研究所(電通PR内)

広報部門の業務テーマにおける「危機管理」の選択率の全体傾向は、わずかではあるが、毎回増加傾向を示している。2018年の調査の時点では、半数(50%)の広報部門が「危機管理」を、担当する業務テーマとして挙げた結果となった。

業種ごとに見てみると、「危機管理力」項目実施率が特に高い(=広報に関係のある危機管理活動が活発な)「電力・ガス」「食料品」「運輸・倉庫」の業種では、業務テーマにおける「危機管理」選択率も高い傾向がみられた。一般生活者の安全・安心に直接的に関係する業種ほど、「広報」が「危機管理」に深く関与しているという傾向が伺える。

なお、「電力・ガス」については、広報の業務テーマにおける「危機管理」の選択率が年々低下しているが、「危機管理力」項目実施率は年々高まっている。その背景のひとつとして例えば、「危機管理広報」の業務の専門性や重要性が高まり、それを扱う「リスクマネジメント部」などでの専門部署が設置されるに至った等の動きが想定される。

優先的な取り組み項目は「トレーニング」と「マニュアル」

2018年のデータにおいて、さらに、「危機管理力」項目実施率の上位3業種(「電力・ガス」「食料品」「運輸・倉庫」)平均と、全体平均のギャップ比較を行った(図表3)。

図表3:「危機管理力」項目実施率の上位3業種平均と全体平均のギャップ比較
 出所:企業広報戦略研究所(電通PR内)

「危機管理力」の項目実施率が高い業種においては、全体平均の値と比べて、特に、トレーニング関連項目の実施率が高い傾向がみられた。そのうち「継続的に模擬緊急記者会見を実施している(メディアトレーニングなど)」の全体平均実施率は16.4%と、10項目の中では最も低い結果となっているが、上位3業種に絞った場合は53.3%と半数以上が実施している。

また、上位3業種平均において実施率の高い項目は「緊急時の社内情報連絡網が整備されている(73.3%)」「広報対応についても具体的に記載された危機管理マニュアルが整備されている(64.4%)」の順になっており、マニュアル・ルールの整備率は極めて高いことがわかった。

上記データから、「危機管理力」の強化を考える際、まず優先的に取り組むべき項目は、やはり「トレーニング」と「マニュアル」であるという点が挙げられる。

「業界・競合の事例研究」に注力する企業も増加

「危機管理力」の10項目のうち、図表3でギャップの大きかった上位5項目について実施率の経年比較をしてみると、また別の項目の重要性が浮かび上がった(図表4)。

図表4:上位3業種平均とのギャップが大きい「危機管理力」項目実施率の経年推移
出所:企業広報戦略研究所(電通PR内)

前出の「トレーニング」に関する2つの項目は継続的に増加傾向にあるが、「マニュアル」に関する項目は2014年以降、横ばい傾向となっている。一方、「業界・競合企業で発生したリスク事案を把握・研究している」の項目は、2018年の調査において実施率に大きな伸びがみられた。

このことから、「危機管理広報」における平時の活動項目として、「業界・競合の事例研究」に注力する企業が増えていることが想定される。一般的に「危機管理広報」というと、緊急記者会見の実施と、それに向けた事前準備をイメージされることが多いと思われるが、それとは別の、こうした平時の活動にも目が向けられつつあることは特筆すべき点であると考える。

「トレーニング」における企業トップの巻き込み

続いて、2018年に実施した「企業の広報活動に関する調査」における、広報活動全80各項目間の実施傾向の相関分析データを見てみる(図表5)。

図表5:「危機管理力」10項目と、他の広報力項目との相関分析結果(一部を抽出)
出所:企業広報戦略研究所(電通PR内)

前出の「トレーニング」に関する2つの項目については、「トップのプレゼンテーション力・表現力を強化するためのトレーニングを実施している」の項目との相関がみられた。

一般的に、緊急時シミュレーショントレーニングも、緊急記者会見トレーニングも、組織としての意思決定の要素が含まれるため、企業トップが参加するケースの多いトレーニングである。そのため、実施にあたっては企業トップをはじめとするトレーニング参加者の協力が得られることが、重要な成功要因となることが多い。その点、企業トップのトレーニングを日ごろから積極的に企画・実施している企業においては、危機管理に関するトレーニングの実施率も高いといった傾向が、今回の調査結果においては明らかになった。

筆者の経験上、危機管理に関するトレーニングは、組織内の調整が難航し、企画開始より数年を経てようやく実施に至るといったケースも少なくない。そうした場合には、例えば広報部門と連携し、企業トップを巻き込んだ別のトレーニングを先に企画・実施する、という方法も効果的な場合があると考えられる。

 

「リスクの予見」に求められる活動とは

相関分析では、「業界・競合企業で発生したリスク事案を把握・研究している」の項目と、「自社の経営リスクを継続的に予測している」の項目についても、共通して複数の広報力に関する項目との相関がみられた(図表5)

ここでピックアップしたのは、相関係表が0.3以上であった「生活者・顧客の意識・実態や、自社への評価を継続的に収集している」「自社に影響を及ぼす法規制や行政の動向について、継続的に把握している」「今後の主な経済・社会・政治動向等の予測をおこなっている」「広報的視点を重視した事業活動やCSR活動を企画・実施している」「顧客や地域住民と直接(オフライン)的に交流する機会を設けている」「社外の有識者を含めた社外取締役制度やアドバイザリーボードを設置している」の6項目。いずれも、様々な社会との接点から、広く情報を収集・分析・活用するための広報活動の項目である。

例えばコーポレートガバナンス・コードでは「適切なリスクテイク」の必要性が指摘されており、その裏付けとしての「先を見越したリスク管理体制の整備」の重要性についても触れられている。しかしながら、どのようにすれば先を見越すことでき、リスクを予見できるのかは非常に難しい問題である。

今回の相関のデータは、この問題について考える際のヒントとなると、筆者は考えている。企業においてまだ自社で表面化していないリスクについて考える時、しばしば参照される情報は、「他社事例」である。しかし「他社事例」だけではなかなか、自社の深い経営リスクの予見までには至らないことも多い。そこで重要となる観点が、ここで挙げた6項目には含まれている。

先を見越した予見の確度を上げるには、大量の情報が必要となる。そこで、マーケティング部門より「生活者・顧客の意識・実態」を、リーガル・政策部門より「法規制や行政の動向」を、調査部門や外部の協力会社より「経済・社会・政治動向」を、コーポレートコミュニケーション部門より「CSR活動の状況」を、渉外部門より「顧客や地域住民との交流の状況」を、そして、社外取締役からの様々なアドバイス等を、能動的に集め・分析する活動が重要となる。

広報と危機管理の両方にまたがる「危機管理広報」を担う部門においては、「トレーニング」「マニュアル」のみならず、こうした情報の集約と、そこから導き出される「リスクの予見」活動が、今後はより一層期待されていくものと考える。

 

攻めの「危機管理広報」で、企業の透明性向上、社会との合意形成推進を

本稿のデータ分析を通して、緊急記者会見に備えるといった守りの側面だけではない、近年の「危機管理広報」の側面が見えてきた。その一つが、「適切なリスクテイク」に向けた、リスクの予見活動である。

2018年に実施した「企業の広報活動に関する調査」の結果がそのような傾向を示した背景としては、本稿の冒頭に記したように、さらなる「透明性」が求められ、「社会との合意形成」がより重要性を増している昨今の情勢が影響していると筆者は考える。このような世の中の流れに対応していくために「危機管理広報」は重要な役割を担っているが、何か問題が起きてしまうとその情報が瞬く間に拡散してしまう昨今、何か問題が起きる前の対処の重要性が増している。そこで必要となるのが、この、リスクの予見の観点となる。

変化の激しい近年のビジネス環境下において適切にリスクを予見していくためには、様々な社会の接点からの情報収集が不可欠である。一方、企業の広報は本来、社内外の様々なステークホルダーから情報を集約する役割を担っていることが多い。そこで、危機管理と広報が連携し、能動的に情報を収集し、リスクテイクのためのアクティブな予見活動を展開していくことは、企業にとってひとつの合理的な活動と言えるのではないだろうか。

企業の成長には「適切なリスクテイク」が必要不可欠だ。攻めの「危機管理広報」活動が広がることで、企業における透明性向上や、社会との合意形成がより一層進むことを期待したい。

 


本記事は、㈱東レ経営研究所 機関誌『経営センサー』 2019年9月号に掲載した内容です。