企業広報戦略研究所 C.S.I. Corporate communication Strategic studies Institute

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広報会議「データで読み解く企業ブランディングの未来」三井化学事例(2020年12月号)

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ブランディング 広報会議連載

企業広報戦略研究所では、広報会議にて「データで読み解く企業ブランディングの未来」と題し、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解く指南役として2020年7月より連載を開始しました。第5回は、「ニューノーマルにおける戦略立案のススメ」をテーマに解説しています。
本トピックスでは、当研究所が隔年で実施している「企業の広報活動に関する調査」において「情報創造力」が突出している企業として「三井化学」の取り組みについてご紹介します。

 


 

 

2015年に三井化学グループのオープン・ラボラトリー活動として広報が立ち上げたMOLp®(モル)。その活動は三井化学のコーポレート広報にも大きく反映されています。「MOLp」の取り組みを立ち上げた広報担当の松永有理氏にお話を伺いました。

 

 

そもそも素材魅力ラボ「MOLp®」を始めたきっかけは何だったのでしょう?

素材のPRってけっこう難しいんです。

当社が扱っているメイン商材は「液体」と「ガス」と「粒々」なのですが、これをどのようにアピールするのか、どういう価値を持っているものであるかをうまく伝えるためには何が必要なのか?ということをPRの課題の一つとして設定しました。

MOLpは素材を通して新たなコミュニケーションを生み出すことを目的にしています。その手段としてプロダクトやインスタレーションで表現したりしますが、完全なモノを作るのではなく、余白を持たせた表現になることを意識しています。余白があることでコミュニケーションが生まれ、可能性が広がります。

また、MOLpの“場”は横のつながりを意識した“砂場”のようなものです。

つまり、やりたい人が集まって、本業が忙しくなったり、やめたくなったりしたら来なくていいし、仲間を連れ立ってきてもいいし、またやりたくなったら来たらいい。そんな部活動状態にしています。

楽しいと能動的になるし、楽しいと人が集まるのでネットワーク外部性が生まれてきます。そうした状態を自然発生的に起こすかを意識しています。現在のアクティブなメンバーは20人くらいです。

これまで運営してきた中での面白い気付きは、自身と関係のない製品への提案の方が、自身の製品をどうするかと考えるより、いいアイデアが出てくるということです。少し距離があるからこそ生まれる発想の方が独創性にあふれているんですね。前提条件や知識がないことで自由に発想できるんだと思います。

そざいの魅力ラボ”MOLp”WEBサイト:https://www.mitsuichem.com/jp/molp/ 

 

 

化学メーカーとしてどうしてこういった発想、着眼点をお持ちになったのでしょうか?

「課題に対する向き合い方」を縦軸に置き、「価値判断」を「横軸」に置いた際に、私たちが得意としている、サイエンスやエンジニアリング、テクノロジーといった機能的な価値を、感性側に振っていくと、アートやデザインになります。そうしたアプローチでコミュニケーションしていくこと、そこにPRが潤滑油として機能することを考えています。

 

「人」と「素材」の歴史をひもといて見ていくと素材は“何かを開放“してきた歴史があると思っています。

例えば、石という素材は、人の創造力で石器を生み出し、農耕を生み出しました。つまり「食」を開放したと考えられます。ガラスもメソポタミア文明、つまり「文化」の開放につながりました。高分子の概念とプラスチックはまだ100年の歴史にすぎません。ですが、その100年の間にプラスチックは近代化を一般化しました。つまり『豊かさの開放』に貢献してきたのだと思います。つまり、素材と加工技術、そして人の創造力が組み合わさることで、何かが開放されていくのだと思います。なので、「素材」という存在は、人の創造力を掻き立てるものでありたいと考えています。

 

「MOLp™」のミッションは、コミュニケーションを通じて僕たちの素材を感じていただき、皆さんの創造力をかき立て、そして共に新しい未来に向けた価値を示していけないかということを起点に据えています。

 

 

本活動の起点となったのはどういったことなのでしょうか?

一つはリーマンショック以後、これまで会社をけん引してきた主要事業が慢性的な赤字に陥り、組織改革をしなくてはいけない状況になり、いや応なくポートフォリオ変革が必要になっていました。その時に「顧客起点に立ち返り、新たな顧客価値を創造していこう」という方針を打ち出したのですが、各自がどういったことをやっていくべきなのか、非常に難しい言葉として捉えられていました。インターナルに広報としては説明していかなくてはなりません。では、広報としてどんな実例でもってみんなを鼓舞できるのか、と考えだしたのが始まりです。また二つ目の理由は、そうした時期に仲間が会社を去るというケースを何度も目の当たりにして、本業以外にも自分たちがやりたいことを自由にできる、そういう場づくりの必要性を感じました。それら課題の具体的実行策としてMOLpを立ち上げました。

 

活動の設計は、エクスターナルには、コミュニケーションのアプローチからブランディングとともに、具体的なマーケティングに寄与していくこと。いかにプッシュでなくプルの状態をつくるのかということを考えています。また、インターナルはエンゲージメントの向上です。特に現場感覚として研究者のエンゲージメントが低くなっているのではという危機感がありました。

インターナルには、会社が未来に対してどんな可能性を持っているのか実際に体感してもらうことが重要と考え、言葉のコミュニケーションではなく、リアルな熱量でコミュニケーションできないかということを考え始めました。

 

 

会社に対する従業員のエンゲージメントの低下をどうにかしたい、変えていきたいという使命感をお持ちだったのですね

私自身がたどり着いた結論として「自分たちで価値と可能性を発見し、自ら語ることが重要だ」ということに行き着きました。

それを実現するためにパブリックリレーションズの機能を使っています。社会に向けて発信し、それをブーメランでインターナルに戻すサイクルを構築し、活動そのものをリアルオウンドメディアにしていけないかというのが初期設定としてありました。

とはいえ、あまり演繹(えんえき)的に考えすぎるのではなく、帰納的に進めながら必然的な偶発性を生み出し、そこからの広がりを楽しむことを大切にしています。

素材に余白を持たせたかたちで、その可能性を広くシェアしていき、いろいろな方々とのコラボレーションを通して未来に向けた価値を共に提示していけたらと思っています。

 

「そざいの魅力ラボ:MOLp」による、初めての単独展示会MOLpCafe「CONCEPT of MIXOLOGY」にて

 

 

そういった意味で三井化学として取り組んでいる「炭鉱電車プロジェクト」は、古くからのレガシー資産を活用し、未来に向けた価値が示せているのではないでしょうか? 

MOLpとはまた違いますが、炭鉱電車プロジェクトも基本的な考えは同じです。

「炭鉱電車プロジェクト」はわれわれのレガシーである古い資産をどう未来に伝えていくべきか、その価値を再発見し未来に伝えようというものです。「炭鉱電車」の価値を感性的に因数分解し、価値を再発見して社会に共有していく取り組みです。やってみたところ、とてもポジティブな良い反響が得られています。

炭鉱電車にまつわる音源をサンプリングして、ノイズを除去した純度の高い音源にして皆さんに自由に使ってもらえるよう公開しています。その音源はいろいろなアーティストの方々が再構築して、楽曲を制作していただいたりと広がりを見せています。これはまさしく素材のアプローチと同じなんですね。他にも、映画監督である瀬木直貴監督とコラボレーションし、視覚と心に訴え掛けるメモリアル映像を制作し、地元の自治体などに寄贈し自由に使っていただけるように開放しています。

 

まだまだコロナで厳しい状況が続きますが、コラボレーションによるイノベーションの推進を通じ、素材の中にある機能的な価値や感性的な魅力を広く発信していくことで、会社の新しい可能性を生み出していくとともに、広報の可能性を広げていきたいと思います。

https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2020/2020_0928.htm

ありがとう炭鉱電車PJ:https://jp.mitsuichemicals.com/jp/coalmine_train/

編集後記

『従業員エンゲージメント』のオウンドメディア化を早々と掲げ、広報というセクションの垣根を越えてアートディレクターかつプロデューサーのような活躍をされている松永氏。

あらためてお話を伺い、社内外のエンゲージメント向上につながる「MOLp」の取り組みこそが、「情報創造力」の源であるのではと再認識しました。

 

(聞き手:企業広報戦略研究所 上席研究員 中 憲仁)