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電通PRトレンドレポート 各界のオピニオンリーダーと考える2021年の展望 ~④「食」篇~

「食=健康」にとどまらない食の多面性  食市場のボーダーレス化時代に食業界が心掛けるべきポイント

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はじめに

 

新型コロナウイルス感染症(以下”コロナ”)の世界的流行は、生活者の行動や価値観を大きく変えました。電通パブリックリレーションズでは、この変化を踏まえ、2021年に企業や団体が取り組むべきコミュニケーション課題を各界のオピニオンリーダーと共に、先読みしていきます。

 


 

「食」篇

第4弾のテーマは、人間の三大欲求の一つであり、生きる上で欠かすことができない『食』です。

食に関わるあらゆるジャンルに精通する食のシンクタンク 株式会社ひめこカンパニーで代表を務める山下智子さんに、コロナ禍が私たちの食生活にもたらした影響についてお話を伺いました。そして、電通パブリックリレーションズが、2021年以降、食関連業界が目指すべきベクトルを読み解きます。

 

 

 

コロナの感染拡大を受け、私たちの食生活にさまざまな変化が起きました。「コロナ禍で、消費者が食への意識を高めたことで、食が人の心を満たす部分がさらに多くなった」と分析する山下さん。

今回の「食」篇では、コロナ禍を通じて起きた、消費者の意識変化、行動変化を踏まえ、今後の食産業に与える影響や企業に期待することを山下さんに伺いました。

 

 

食に対する意識の変化 〜多面性への気づきと二極化〜

コロナの発生により、食に関する環境は大きく変化しました。この環境変化は、人が食べ物に向き合う機会、食べるという行為について考える機会を増やしたと感じています。

これまで「食べることが面倒」「おなかがすかなければ食べる時間もお金も節約できる」と考える人もいましたが、そうした人すらも、コロナによって単に必要に迫られて食べるだけではない食の多面性について意識するようになったのではないでしょうか。

#食が持つ多面性がコロナで浮き彫りに

コロナによる変化によって、食が本来持っている多面性が浮き彫りになりました。その多面性は、安全・安心、健康、家族・人とのつながり、豊かさ、楽しさ、文化、環境、経済など食が持つあらゆる事柄を包含しています。かつ、これらの事柄は、すべて食へのニーズにもつながります。こうしたニーズそのものはコロナ前からあったものです。しかし、コロナによっておうち時間が長くなるなどの生活の変化によって、食について考える機会が増えたことで、生活者に強く意識されるようになったと考えられます。

 

#複雑な二極化が発生、今後も拡大

食に関する行動変化という面で見ると、二極化が起きているといえるでしょう。しかも、その二極化は以下の表に示したように、一人の人間の中で起きている二極化、経済的事情や価値観による個人個人の二極化と複雑です。私はこの二極化は、今後も広がるのではないかとみています。

 

山下さんが指摘する二極化の例

 

 

食市場のボーダーレス化とマインドフルネス

これまで食市場は、大きく外食・中食・内食と大別されてきました。しかし、コロナの影響から星付きレストランがデリバリーできるようになったり、食器付きのフレンチのコースが自宅に届いたり、自宅の駐車場にキッチンカーがやってきてシェフが料理をしてくれるなど、外食の料理や演出がそのまま家に入り込んでくるようなことが起きています。また、飲食店から料理キットが届いて、シェフと一緒に料理を作るサービスもあります。外食・中食・内食の楽しみ方の境界線が曖昧になったわけです。

かねて日本は、食を楽しむ環境のバリエーションが豊かになっています。さらにコロナをきっかけに、生活者の気分や懐具合、時間的/物理的な条件など、その時に適した料理を調達するサービスが生まれました。もちろん、お店で食べる本来の良さ(場の重要性)が失われることはありませんが、外食・中食・内食の境界線が曖昧化する傾向は、これからも強まるでしょう。

#ぬか漬けで自分の心と向き合うマインドフルネス

今、コロナ不況が起きていますが、不況になると必ずはやる食行動が”発酵させる”や”漬ける”という行為です。時代が不安定になると人は癒やしを求め、育てるようないとおしむ感覚を求めるようになります。塩麹がはやったのも、東日本大震災後でした。このように心と食は、互いに大きな影響を与え、食は心を変える、支える力を持っています。

コロナで先行きを不安に思う人も多く、リモートワークで孤独感を感じている人も多いと思われる中、私は、食が支える“心の健康”は、大きなテーマになると考えています。

コロナ禍で厳しい状況に立たされた飲食店や生産者を支える動きはネット上でも広がっていますが、これからは、食を通じて自分の心と向き合い、人と人とのつながりを感じさせてくれることは、これまで以上に大切になり、食にマインドフルネスを求めるニーズは高くなるのではないでしょうか。

 

#日本人は、エクスキューズフードがお好き

二極化の一つの現象として「食事と間食の区別がなくなっている」と述べましたが、その代表的な例が「お食事ケーキ」です。たっぷりの野菜やタンパク質の多い食材を使っているので、女性たちは「これはケーキでなく食事」と言って食べています。

これは日本人特有の感覚で、食べてもいい理由がある、自分を正当化してくれる「エクスキューズフード」へのニーズです。高カカオや乳酸菌の入ったチョコレート、ビールを飲む前のウコンサプリメント、これらもすべてエクスキューズフードだといえるでしょう。コロナによる外出自粛で、コロナ太りや運動不足を気にする人や免疫力をアップさせたいと考える人は増えています。エクスキューズ(食べることを正当化してくれる)フードであることは引き続きアドバンテージがあると思います。

 

食が持つファッション性 〜自己表現の手段としての食〜

コロナ禍を経て、食について考える機会が増え、自分に向き合う時間が増えたことで、食が人の充足感につながるポテンシャルは高まっていると思います。楽しい時間をすごす、心の豊かさを得る、美しくある、自分に自信が持てる・・・こうした充足感は、これまでファッションやビューティーの世界がその多くを担ってきましたが、これからはそうした豊かさを食に求める人が多くなるのではないでしょうか。

食は人を変える力を持っている。そのことを念頭に、食を提供する産業に携わる方々には、ぜひメッセージ性のある食を提供していただきたいと思います。

#自己表現の手段として食を選択するZ世代・ミレニアル世代

欧米や韓国では、環境問題意識の高い若い世代が、アニマルウェルフェアを意識し、プラントベースフード(植物性原料を使った食や料理)やビーガン・ベジタリアンフードを選んでいます。一切動物性のものを排除した生活を送る人がいる一方、できるだけ減らして、柔軟に対応しようという「フレキシタリアン」と呼ばれる人も多く、彼らが市場をけん引しているともいわれています。

宗教などを背景とせず、自分の生き方やアイデンティティーの表現として食の選択をしているフレキシタリアンにとって、プラントベースフードやビーガン・ベジタリアンフードを選択することは、ペットボトルで出来たTシャツを選ぶことと同じです。宗教的なルールや我慢を強いることではなく、自身のスタイルで続けられることからも、今後日本でもさらに広がる可能性があるでしょう。個人の感覚ですが、日本にもフレキシタリアンを含めると、ビーガン・ベジタリアンは2割程度いるのではないかと推測しています。

 

#共感消費を促すにはメッセージがカギを握る

日本の食産業に関わる企業は、これまで個別の商品ベネフィットをアピールしても、企業の想いやブランドメッセージを消費者に浸透させる活動に十分力を注いでいなかったと思います。コロナ禍で、消費者の食に対する意識が高まっている中、今以上に食産業は、想いやこだわり、ものづくりの姿勢といったストーリーを常に発信していかなくてはなりません。

そして、消費者とコミュニケーション、キャッチボールを続けることです。ネット上での投げ銭、クラウドファンディングに見られるように、特にZ世代・ミレニアル世代の人たちは、自分の好きなブランドを一緒につくりたいという気持ちにあふれています。私は、今後いずれの業界においても「共感消費」がキーワードになると考えています。企業の規模や業態にかかわらず、共感できるメッセージと共に食を届けること、それがこれからの食提供者の仕事ではないでしょうか。

*注釈 (出典:http://himeko.co.jp/pdf/2020_trend-1.pdf )

《ひめこカンパニーによる2020年の食市場のトレンド相関図》

山下さんは、コロナ禍前にこの相関図を発表したが、コロナ禍以降もこれらのキーワードは加速度的に進んでいるとしている。

 

あとがき:

【電通PRトレンド予測レポート編集部の視点】

食が持つストーリーの積極的発信や特別感の演出で、生活者の多面的なニーズに向き合う

山下さんのインタビューから、コロナを通して、食へのニーズがいわゆる健康志向といったポイントにとどまらず、自己表現や心の豊かさ、人生の充足感を与える役割を果たすものであることが示唆されました。

 

・共感できるメッセージの発信 〜生活者の「素材を見る目」の厳しさ〜

食において“健康”というキーワードは、商品を売りたい時の訴求ポイントにはなりますが、ブランドをつくるときには、ベネフィットとしての健康だけでなく、エモーションに訴えるメッセージを伴う必要があるのかもしれません。企業や生産地のものづくりへのこだわり、原材料の安全性、工場・職人の技など、「共感できるストーリー」が一層求められそうです。それは、コロナによって、生活者の思考の方向性が変わったのではなく、コロナによって、食と向き合う時間が増えたことで加速度的にそういった意識が高まったともいえます。そこには環境配慮やクリーンな調達をしているかといったSDGs的な視点もポイントになると思われます。

・若者世代へのアプローチ 〜自己表現手段としての食〜

ベジタリアン、ビーガン、フレキシタリアン、プラントベースフードの選択など食に対するスタンスが、ファッションが担っているような自己表現手段の一つとなっています。こうした層とのコミュニケーションの在り方は、改めて考えてみても良いかもしれません。上述のような「共感」による消費に値するのか。応援したい食材、食品であるのか。彼らが思いを重ねられるブランドであるのか。ベネフィットよりもエモーションを大事にしたメッセージの発信が重要になりそうです。またそれは、これまで食に熱心でなかった人たちへのアプローチのチャンスにもなる可能性があるのではないでしょうか。

・外食・中食・内食ボーダーレス化にどう対応するか

ボーダーレス化によって、外食の価値が下がるわけではありません。同じ鍋でも、一人しゃぶしゃぶは非常にはやっているように、これからターゲット、スタイルを変えれば、チャンスがあるといえそうです。一方、素材がよければおいしく食べられるという理由で外食の価値が下がっていることを踏まえると、中食・内食には、そこにチャンスがありそうです。また、高級デリバリーフードをはじめ、手軽に豪華な食事を手に入れることができるという点では、ハレとケで外食と内食を分けるという境目もなくなってきているといえます。しかし、だからこそ、例えばクリスマス、正月、バレンタインといった、特別な日を外食・中食・内食が、それぞれどういった価値を提供してくれるかという点はニューノーマル時代の重要なポイントとなりそうです。

 

(監修・協力=ジャーナリスト・古田大輔)

 

 電通PR トレンド予測レポート 編集部
 

 植野 友生 TOMOMI UENO

 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部

 今井 慎之助  SHINNOSUKE IMAI
 情報流通デザイン局 ソリューションデザイン3部 兼 コミュニケーションデザイン部

 高橋 洋平 YOHEI TAKAHASHI
 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部