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電通PRトレンドレポート 各界のオピニオンリーダーと考える2021年の展望 ~⑦「ヘルスケア」篇~

ヘルスケアの拡大と役割の再構築  "オンライン化"が生み出す隙間とニーズ

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はじめに

 

新型コロナウイルス感染症(以下”コロナ”)の世界的流行は、生活者の行動や価値観を大きく変えました。電通パブリックリレーションズでは、この変化を踏まえ、2021年に企業や団体が取り組むべきコミュニケーション課題を各界のオピニオンリーダーと共に、先読みしていきます。

 


 

「ヘルスケア」篇

第7弾は、コロナの感染拡大により、一層需要が高まっている「ヘルステック」を中心とした『ヘルスケア』がテーマです。今回は、ヘルステックの海外の動向にも詳しい、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalでシニアアソシエイトを務める吉澤美弥子さんにお話を伺いました。そして、電通パブリックリレーションズが、国内のヘルスケアビジネスの今後のトレンドを読み解きます。

 

「コロナ禍で、生活者の健康意識や病気への予防意識が格段に高まった」と話す吉澤さん。

今回の「ヘルスケア篇」では、コロナ禍で起きた生活者の意識や認識の変化とヘルステックビジネスへの影響、そして今後進展が期待されるメンタルヘルスケア市場の展望についてお話をお聞きしました。

 

 

1. 生活者の変化~ヘルスケアへの情報感度とリテラシーの向上

コロナ禍が、ヘルスケアにもたらした最も大きなインパクトは、健康意識や病気への予防意識、それに伴うヘルスケアに対する生活者の知識が格段に高まったことにあると思っています。

これまで知られていなかった「滅菌・消毒・殺菌」の違いが、SNSなどでも話題になったことからも、生活者のヘルスケア情報への感度が高まっていることが分かります。

情報収集に関しても、これまで生活者は専門家の知識に依存しがちでしたが、コロナに関連する医療情報が日々変化していく中で、自ら情報を取りに行く重要性にも気付き、ヘルスリテラシーが向上したように思います。今後は、医療を含めたヘルスケアの意思決定において、生活者自らがしっかりと情報収集を行った上で、判断をする傾向は強まるのではないでしょうか。

 

#オンライン化の遅れが露呈

コロナ禍で、これまでと同じライフスタイルでは立ち行かなくなった生活者は、模索の中で飲食から娯楽まで、あらゆることがオンラインで完結できることに気付きました。露呈したのがヘルスケアにおけるオンライン化の遅れです。

予防意識の高まりから、ヘルスケアリテラシーも上がっている中で、オンラインで正しい情報を得たいというニーズ、オンライン診療への期待値は、今後ますます高まっていきます。ヘルスケアのオンライン化の推進は、待ったなしといえるでしょう。

 

#ヘルスケアの認識の広がりが、ヘルステックにチャンスをもたらす

健康・予防意識だけでなく、健康への投資金額も増え、関心を持つ年齢層も広がっています。健康機能をうたう付加価値が高い食品が選ばれるようになり、健康や運動のデータを計測できるヘルスケア機能をもったウエアラブルデバイスを使う若い世代も増えています。

かつては、健康=シニアネタ、ヘルスケア=医療だったヘルスケアの認識が、ここ5~6年でじわじわと変化し、予防、日々の健康維持まで意識が広がったことが、こうした行動にも表れているのだと思います。

現在、日本国内の総保健医療支出はGDPの1割を超えています。ヘルスケアのオンラインニーズも高まる中で、これまで手付かずだった、不便さやニーズを埋めるヘルステックを活用したサービスが生まれることで、お財布の残り9割からもヘルスケアに投資する金額は増えていくのではないでしょうか。

*総保健医療支出:国民医療費、および保険適用外のサービス(自由診療、一般薬、予防接種、健康診断など)を含むすべての医療サービスに対する支出

 

 

2.民間企業への期待~脱商圏ビジネスの医療業界が生み出すニーズ~

今年10月に行われた閣僚会議で、コロナ収束までの特例的・時限的な措置とされていたオンライン診療による初診が、まずは「かかりつけ医」が診療する際においては今後、原則解禁とし恒久化する方針が示されました。

オンライン診療は、医療機関と患者さんが物理的距離を超えることができます。これまで医療機関は、いわゆる“診療圏(商圏)ビジネス”とされてきましたが、オンライン診療はこの常識を根底から覆すことになることから、医療領域においても新たなビジネスが生まれるチャンスになると期待しています。

 

#病院選びの指標が変わる!予約から処方まで一連のサービス向上が差別化のカギに!

通院距離がないオンライン診療が普及すれば、生活者の病院を選ぶ指標も変わってくるでしょう。診療や服薬指導の的確さはもちろんですが、受診予約、診療、決済、薬の処方まで、一連のオンラインサービスのクオリティーが差別化につながると考えられます。

これらのサービスの質の向上に向けて、私が期待しているのが民間企業の存在です。不便をなくす、受診前後のプロセスの改善は、民間企業の持つ発想力と技術力が欠かせないものとなるでしょう。

 

#二つの課題「医療とアプリの連携」「診療報酬制度」

今後、国内でのオンライン診療の普及に向けて、私は大きく二つの課題があると考えています。一つはオンライン上での医療とヘルスケアアプリとの連携、二つ目が診療報酬です。

日本では、医療とヘルスケアアプリが分断されて存在していますが、米国などでは、クリニックが提供するサービスの一環としてアプリがあることが医療機関の強みになっています。今後、オンライン診療を普及させていくためには、医療機関や健康保険と生活者が連携できるサービス提供がポイントになるでしょう。

診療報酬ですが、現状、対面診療とオンライン診療とでは、診療行為の範囲が異なるという見解から、オンライン診療の診療報酬は抑制されています。今後、国民皆保険制度の中にオンライン診療がどのように位置付けられていくのか、注視していきたいと思います。

 

 

3. メンタルヘルスケア市場への期待~オンライン診療の制度化への風潮がもたらすもの~

オンライン診療の好影響が、顕著に出ると考えられる診療領域が「メンタルヘルス(精神科、神経科、精神神経科など)」です。

日本では、2015年から改正労働安全衛生法によりストレスチェックの実施が義務付けられ、2018年には心の健康の維持を支援する「公認心理師」が国家資格として導入されました。良好なメンタルヘルスの維持・向上が経済的観点からも重要であることが示された象徴的な出来事でもあります。

民間企業においても、食品メーカーや化粧品メーカーが睡眠市場に参入し、生活者の意識も以前と比較するとメンタルヘルスをポジティブに改善しようという意識が出ているように思えます。コロナ禍での不安により、メンタルヘルスケアの需要が高まっています。今後 オンライン診療の普及と相まって、日本のメンタルヘルスケアがどのように進化していくのか、注目ですし、民間企業にとっても気にかけるべき分野であると考えます。

 

#《患者》 「逃避」から「改善」へのマインドシフト

以前の日本では、うつ病や統合失調症など心の病気をネガティブに捉える傾向がありました。それ故に、患者さんは、お酒やタバコ、賭け事、あるいは宗教的なものに「逃避」することもあり、孤立感が高まり、ますます悪化するケースも見られました。

しかし、今ではヨガや瞑想などが一般メディアでも広く取り上げられ、生活者自身もメンタルヘルスについてリアルやオンラインの場で会話する機会も増え、以前よりもずっと環境が改善していると感じています。

欧米では、心の病気は逃避するのではなく、健全に「改善」しようという意識が高い傾向にあります。日本でも、今の機運を生かし、心の病気が逃避市場につながるのではなく、適切な医療機関を受診する「改善行動」につながっていくことに期待しています。

 

#《医療》 制度整備とオンライン診療の加速が早期アクセスに直結

病院に足を運ばなくてもいいオンライン診療は、特にメンタルヘルスの領域において、受診行動を促しやすくなると思っています。また、患者さんはメンタルヘルスの不調を意識的・無意識的に隠す傾向があるため、医師と患者間の情報の非対称性が強くなりがちですが、オンライン診療であれば、患者さんも心理的プレッシャーが軽減され、話しやすくなる可能性があります。

今後、公認心理師のように、メンタルヘルスの専門的な知識やスキルを評価する制度が一層整備され、オンライン診療が進むことで、潜在的な患者層の早期アクセスを増やすことができると考えています。

 

#《企業》 メンタルリスクをスクリーニングできるオンライン環境に期待

コロナの影響を受け、企業の業務管理のオンライン化が進んでいることからも、今後リモートワークをする社員を企業がオンラインで状況把握するようなメンタルケアソリューションも生まれるかもしれません。

オーストラリアのスタートアップ企業では、業務で利用するクラウド経由のアプリを通じて、リモートワークをする従業員に最適なタイミングで業務サポートメッセージを送ったり、ツール提案を行うことで、従業員のストレスを軽減するサービスを展開しています。米国では、労働者のメンタル状況を雇用主がより早く検知できるサービスが登場しています。

日本でも、オンラインという環境を生かし、管理者が業務量や進捗状況を把握することで、メンタル面でのリスクも同時にスクリーニングできるような世界が今後出来てくるのではないでしょうか。

コロナは、日本の保健医療システムの脆弱(ぜいじゃく)性やオンライン診療をはじめとするヘルスケア分野のDXの遅れなど、既存のヘルスケアシステムの限界を浮き彫りにしました。

欧米の先進国では、国民一人一人を中心に置いた統合的かつ質の高いケアを基本とする「ヘルスケアの再構築」の課題に取り組んでいますが、日本においても生活者の意識と行動の変化、また規制緩和が少しずつですが進んでいる現状を踏まえると、postコロナを見据えた個人を起点とする予防からケアまでの総合的な「ヘルスケアの再構築」は喫緊の課題だといえるでしょう。

 

 

あとがき:

【電通PRトレンド予測レポート編集部の視点】

ヘルスケア概念の拡大が生む医療業界と生活者の隙間に、民間企業のチャンスあり


吉澤さんのインタビューから、コロナを通して、生活者のへルスケアに対するニーズの拡大とともに、少しずつですが変容していく医療・ヘルスケア業界が見えてきます。医療・ヘルスケア業界と生活者の間のハブとなるテックやその中間を埋めるサービスや活動において、民間企業のチャンスがあることが示唆されました。

 

エビデンスと誠実な情報を的確なタイミングで発信する

冒頭でも除菌・滅菌・消毒の違いについてSNSで話題になったことを、吉澤さんは指摘しています。まだまだフェイクも多く拡散してしまう事例があるものの、生活者は、情報を判別するリテラシーが高まっていること。また、とりわけ対企業において、間違った情報や倫理に受け入れ難い意見を発信することに対するアレルギーが強くなっていることを再認識すべきではないでしょうか。今後企業にとっては、正しい情報はもとより、エビデンスと誠実な情報を的確なタイミングで出すことが一層求められていくのではないでしょうか。広報担当者はそれをしっかりと見極めることが必要です。

 

オンライン化が生み出す隙間や不便さを見いだす

物流や消費といったコマースに対して、ヘルスケアはモバイルを有効に活用できていないことに消費者は気付きました。コロナを通して拡大したオンライン化へのニーズは、先日の河野太郎規制改革相によるオンライン診療原則解禁の方針発表をはじめ、大きく動きだす可能性があります。しかし、いわゆる業界の既得権益層との折り合いなど、必ずしもスムーズな変化とはならないことでしょう。それ故に生まれる隙間や不便さは今後、民間企業にとってのビジネスが生まれるチャンスとなるのではないでしょうか。インタビューではオーストラリアの事例をご紹介いただきましたが、民間企業におけるコミュニケーション領域の商品やサービスをきっかけにヘルスケア領域に入ることができる可能性もあるのではないでしょうか。

 

心の健康 メンタルヘルスへの真摯な姿勢

医療・ヘルスケアのオンライン化の流れとコロナによる生活の一変により、メンタルヘルスの注目度が上がりました。それに伴って、自社社員のメンタルヘルスに向き合う真摯(しんし)な取り組みが、健全な企業経営のための要素となり、また生活者や市場の評価にも直結する環境が整いつつあります。インタビューの最後に「postコロナを見据えた個人を起点とする予防からケアまで」のヘルスケア再構築の重要性を指摘いただきました。広報担当者の立場としても、ただただメンタルヘルスの総論的な部分をうたうだけではなく、不調を来している当事者に寄り添った、いわばボトムアップの社内コミュニケーションが重要ではないでしょうか。

 

(監修・協力=ジャーナリスト・古田大輔)

 

 電通PR トレンド予測レポート 編集部
 

 植野 友生 TOMOMI UENO

 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部

 今井 慎之助  SHINNOSUKE IMAI
 情報流通デザイン局 ソリューションデザイン3部 兼 コミュニケーションデザイン部

 高橋 洋平 YOHEI TAKAHASHI
 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部